|
きょうの社説 2009年7月10日
◎知事会の要望活動 唐突な消費税引き上げ提言
近づく総選挙を千載一遇の好機ととらえ、全国知事会が各党に地方分権改革を迫るのは
理解できるとしても、財源確保のために消費税引き上げまで提言しようとするのは唐突な印象を受ける。政府や各党への要求はあくまで住民や地域のためであり、自治体の台所事情が火の車だからといって国にいきなり増税を求めるのは短絡的すぎないか。国から地方への税源移譲は消費税引き上げをあてにせず、まず税収構造の仕組みを変え ていくのが筋である。「消費税の前に徹底した霞が関の無駄の削減」を主張する民主党の論を当てはめれば、自治体の行財政改革の進捗状況もより厳しく問われることになろう。 全国知事会の地方消費税特別委員会は地方自治体の財源不足額が2012年度には最大 で13兆1千億円まで膨らむと試算し、「消費税・地方消費税の引き上げが不可欠」とする提言案をまとめた。現在は5%の消費税の1%が地方税であり、景気の影響や地域の偏りが少ない安定財源として知事会は以前から地方消費税拡充を要望していたが、消費税全体の引き上げまで同時に求めるのは初めてである。 不況による税収減などで、地方自治体の財政運営はどこも苦境に立たされている。今年 度は緊急対策として地方交付税が1兆円別枠で加算されたが、そうした自転車操業はいつまでも続けられない。地方の財源不足解消には税配分の抜本的な見直しと国からの税源移譲が不可欠である。 だが、今回の消費税引き上げ案は国と地方間の財源論にとどまり、「住民サービス確保 のため」とうたっていても、それと引き換えに住民が増税に納得したわけではないだろう。消費税引き上げが地域経済や住民生活に幅広く影響が及ぶことを考えれば、軽々に判断できる問題ではない。引き上げ案が諮られる次の全国知事会議は慎重な審議が求められよう。 次期衆院選は政権交代が現実味を帯びるなか、各党は知事会を引き込もうとし、一方の 知事会も要望実現に躍起になっている。政党との駆け引きに目を奪われるあまり、地域への目配りを怠ることがないよう気をつけてほしい。
◎G8首脳宣言 南北の溝を越えられるか
イタリア・ラクイラでの主要国(G8)首脳会議でまとめられた政治分野の宣言と声明
は、核軍縮・核不拡散に取り組む姿勢を明確に打ち出し、北朝鮮の核実験とミサイル発射を強く非難するとともに、拉致問題にも言及するなど、日本に期待を抱かせる文言が並んだ。しかし、「核兵器のない世界に向けた状況をつくる」というG8の約束を実現するため 、中国やインド、パキスタンの協力を取り付け、北朝鮮、イランの核開発を阻止する具体的戦略や手だてを持ち合わせているわけではない。主要テーマの一つである温室効果ガス削減問題も含めて、先進国と開発途上国の「南北対立」を克服することの難しさがあらためて浮き彫りにされた形でもある。 首脳会議で麻生太郎首相は、国連の制裁決議後もミサイル連射で挑発をする北朝鮮に関 して、「国際社会の声を無視するもので、断固とした立場で臨むべき」と主張し、各国首脳の支持を得た。国際社会に制裁決議の履行と拉致問題への取り組みを求める宣言は、これに先立つ安保理議長談話の取りまとめで根回しに動いた日本外交の成果といってもよい。 また、米ロの戦略核弾頭削減合意を評価し、G8として「核なき世界」の表現を用いた ことは、核廃絶を訴える日本として大いに歓迎すべきことである。ただ、オバマ米大統領の顔を立て、歩調を合わせた印象もぬぐえず、前途は多難といわざるを得ない。 地球温暖化対策に関する宣言で、温室効果ガス削減の長期目標により具体性を持たせた ことは前進といえる。それでも、G8のほかに新興国の中国、インド、ブラジルなどを加えた主要経済国フォーラムの首脳会合では、温室効果ガスの削減目標を宣言に盛り込むかどうかをめぐり、先進国と新興国の対立が表面化した。 いわゆるポスト京都議定書を話し合う国連作業部会では、温暖化の「歴史的責任」をも 問う途上国と先進国が激しく衝突している。今回のサミットで、こうした南北の溝を越える足掛かりを得たと言い切れないのは残念である。
|