きょうのコラム「時鐘」 2009年7月10日

 大都会でエスカレーターに乗るときは、真ん中に立ってはいけない。道路の追い越し車線のように、エスカレーターにも「追い抜き空間」を作るのがルールらしい

みんな片隅に寄っている。その傍らを、動くステップを駆け上がって追い抜く人が次々と続く。下りのステップを駆け降りる人までいる。せいぜい秒単位の時間短縮。せっかち自慢が大勢いる

JR西日本社長が起訴された尼崎の脱線事故現場は、新たに付け替えられた線路で起きた。尼崎駅で乗り換える手間を省くための付け替えである。いったん列車を降りて、乗り換えるのもわずかな時間でしかない。私鉄と競合する大都会では、そんな短縮も「売り物」になるのか

何度か事故現場を通ったことがある。列車は急カーブの手前から減速する。事故の記憶はまだ新しい。窓の外にじっと目を凝らす乗客の姿を何人も見た。この人たちは恐らく、エスカレーターを駆けたりはしないだろう。急ぐにしても、節度も限度もある

何度注意されても、ステップの隅に立つ習慣は身につかない。鈍いのでなく、都会ずれしていない、と自慢している。