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G8核声明―廃絶へ、歴史動かそう

 「核兵器のない世界に向けた状況をつくることを約束する」。四つの核兵器国が参加する主要国首脳会議(G8)で、そんな声明が発表された。主役はやはり、核廃絶構想を掲げるオバマ米大統領だ。新たな核軍縮条約をロシアと基本合意した勢いに乗って、さらに核時代を変えようと動いた。

 声明はすべての核保有国に対し、もっと核兵器情報を明らかにし、核軍縮を進めるよう求めている。米ロの削減が進んだ段階で、中国、英仏も含めた多国間の核軍縮交渉をめざす意図がこめられているのだろう。すぐ実現しないまでも、G8の指導者たちがこの道筋での協調を確認した意義は大きい。

 包括的核実験禁止条約(CTBT)へのG8の評価も一転した。ブッシュ政権はCTBTに背を向けたが、オバマ氏は核廃絶に向けた重要な措置とみている。それを反映して声明は、96年に採択されたCTBTの早期発効に努力すると強調した。

 CTBTの発効には、未批准の米国、中国、インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルなどの批准がいる。まず重要なのは米国だ。条約の批准承認には議会上院の3分の2の賛成が必要で、なかなかハードルは高い。

 だが、米国が批准すれば、署名済みの中国、イスラエルを動かすテコになる。米中がCTBTに加われば、署名さえしていないインド、パキスタンへの説得材料となる。核軍縮を進め、CTBT参加の輪を広げていけば、北朝鮮に核実験停止、さらには核廃棄を迫る外交圧力にもなる。

 米国が批准すればG8すべてがCTBTの締約国となる。早期に批准し、G8が足並みをそろえてCTBT発効を促す外交を実現してもらいたい。

 オバマ氏は4月のプラハ演説で、「地球規模の核戦争の危険は遠のいたが、核攻撃の脅威は増大した」との認識を示した。同時に核によるテロは、「世界の安全保障への最も切迫した大きな脅威だ」と、テロ集団への核拡散防止の必要性を説いた。声明も、核テロリズムに対し協調して立ち向かう決意を示した。

 G8でオバマ氏は、来年春にワシントンで核安全保障サミットを開催すると表明した。世界の核物質を安全に管理し、「核の闇市場」などで拡散するのを防ぐためだ。北朝鮮やイランの問題で信頼感が落ちた核不拡散条約(NPT)を補完する試みであり、ぜひ実効をあげてもらいたい。

 「核兵器のない世界に向けた状況」をつくるには、核軍縮と核不拡散の両方が欠かせない。核保有国が大量の核を温存したままでは、非核国に新たな不拡散のための措置を求めても協力を得にくいからだ。核戦争、核テロの両方を防ぐためには、軍縮と不拡散を同時に進めていく必要がある。

知事と分権―騒動だけに終わらせるな

 近づく衆院選に向けて知事たちの動きが活発だ。いまこそ地方分権を進める好機と見て、政党側に一気に迫ろうというのだ。

 大阪府の橋下徹知事はきのうまでに主な政党の幹部と会い、道州制の実現や国政に自治体の意向を反映させる仕組みをつくるよう訴えた。橋下氏は、政権公約の優劣を見極め、全国知事会や市町村会として支持政党を打ち出そうと、首長たちに呼びかけている。

 一方、宮崎県の東国原英夫知事は自民党からの立候補要請に対し、知事会が求める地方分権策をマニフェストに入れること、そして自らを次期党総裁候補にするという条件を突きつけた。

 両知事の言動は、テレビなどで連日報じられている。政党の側も、2人の人気を選挙で有利に使えないかと、その言い分に耳を傾けようとしている。

 かけ声ばかり大きくて、実際はなかなか動かないのが地方分権だ。それが両知事の行動で、選挙の争点としてクローズアップされた。

 メディアへの露出度の高い知事たちが、知名度を利用して政党に地方分権の実現を迫る。その手法はともかく、目的として掲げる政策に共感する人は多かろう。

 だが、各党がマニフェストに分権策を書き込んだとしても、それで分権改革が進むほど簡単なものではない。

 例えば、政府の地方分権改革推進委員会が具体策を勧告しても、役所の意を受けた族議員たちが寄ってたかって骨抜きにする。自治体の側も中央頼みの体質が抜けず、権限移譲を歓迎しない向きもある。メリットが見えにくいから、住民の意識も盛り上がらない。

 こんな構図を打ち破るには、どうするか。次の政権を構成する政党のやる気も重要だが、何よりも知事や市町村長が日々の仕事の中で、分権の担い手たる気概と迫力を示すことだ。

 例えばこんな取り組みがある。

 京都府は、赤字体質に苦しむ市町村運営の国民健康保険を府に一元化できないか検討している。府が責任を負うことになるが、市町村の窮状をこのまま放ってはおけない、との山田啓二知事の判断で乗り出した。地域の問題は地域で解決する。それが自治、という思いからなのだろう。

 また、政府自民党の意に反して川辺川ダムの白紙撤回を表明した熊本県の蒲島郁夫知事ら、国の公共事業に反旗を翻す知事たちも出てきた。

 共通するのは、住民から選挙で選ばれた行政トップとしての責任感だ。

 知事や市町村長には、いまでも大きな権限がある。それをとことん行使し、現行の自治制度の限界に挑戦してこそ、さらなる分権への説得力も生まれてくるのではないだろうか。

 今の流れを、選挙前のうたかたの騒動に終わらせてはなるまい。

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