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総務官僚たちの夏


産業政策を礼賛する番組を、50年前の昔話だと思ってはいけない。総務省は7月3日、「電波新産業創出戦略」なるターゲティング政策を打ち出した。それによれば、上の図のように
2015 年までに5つの電波利用システムを実現し、2020 年までにさらにこれを高度化・発展させることが不可欠である。すなわち、これらシステムごとの周波数配分・研究開発推進の連携施策を5つの「電波新産業創出プロジェクト」として創設し、2010 年代の新たな電波利用システムの実現を推進するエンジンとして位置づける
とのことだ(強調は引用者)。この審議の過程では、経産省からさえ「役所が周波数や技術まで決めるのは時代錯誤だ」として、周波数オークションの導入を求める意見がパブリック・コメントの原案に書かれたが、それも無視され、100年前と同じ命令と統制(command and control)によって、総務省が最適な技術と業者を選んで電波を割り当てる。かつて通産省が「有望」な業者に外貨を割り当てたのと同じだ。「電波利用制度の抜本的見直し」という項目には、ホワイトスペースの「技術的検証」を行なうと1行書いてあるだけだ。

こういう政策がいかに異様なものであるかは、海外と比べればわかる。たとえば昨年、行なわれたアメリカの700MHz帯のオークションでは、落札した業者がその帯域を何に使うかについての制限はない。他社にも端末を開放せよという条件はついたが、基本的には他の無線通信に干渉しなければ何に使ってもよい帯域免許である。急速に進歩する無線技術の世界で、役所が勝手に「戦略」を決めて業者に押しつけるのは有害無益だからである。

総務省がこのような「命令」方式で電波と技術を割り当てた結果、日本の第2世代携帯電話はPDCという規格で「国内統一」されて携帯業界はガラパゴス化し、現在に至っている。地デジ(ISDB-T)も、日本以外ではブラジルとチリだけで使われる「南米規格」である。かりに上の図のような電波利用が2020年に可能になるとして、どの分野がもっとも有望で、どういう業者が最大の収益を上げられるか、総務省は正確に予想できるのだろうか?

もしできなければ、誤って割り当てた電波を再配分するには最低10年かかる。この「戦略」で確実に利益を得るのは、毎年600億円以上の電波利用料を「研究費」として使える総務省の天下り先(NICTなど)ぐらいだろう。かつての「国民車構想」が実現しなかったことは日本の自動車産業にとって大きな福音となったが、この「電波新産業創出戦略」が実現すると、日本の電波産業はGMのようになるのではないか。
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