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日露首脳会談:北方領土、解決機運遠のく 新たな提案なし 政権弱体化も影響

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR 外交>

 ラクイラ・サミットの際に行われた麻生太郎首相とロシアのメドベージェフ大統領との9日の首脳会談は、北方領土問題を進展させることができなかった。ロシア側がアジア・太平洋地域に日本の協力で進出したい意向を強く持っていることから、日本側は「領土問題の進展を図るチャンス」(外務省幹部)と期待していた。それだけにロシアからのゼロ回答に対する失望感は大きい。次期衆院選を前に弱体化する麻生政権に対して「領土問題を進展させる意味がないと足元を見られた」(政府高官)ことが要因としてあるようだ。【ラクイラ高塚保、犬飼直幸】

 「残念ながら日本側にとって満足のいく内容のものではなかった」。会談に同席した外務省幹部は終了後、落胆した表情を隠せなかった。

 戦後保守政治の礎を作った吉田茂元首相の孫である麻生首相は、外相時代から北方領土問題について「自分は真正保守として、歴史への責任を有している」と述べ、解決に強い意欲を見せてきた。

 麻生政権発足以来、原子力協定署名やロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」での協力など、経済・エネルギー分野の関係強化をテコに領土問題進展を図ってきた。外務省幹部は「日本からの持ち出し超過になっており、ロシア側も領土問題を動かしてバランスを取るだろう」と指摘。首相と大統領はともに事業家の経験があってうまが合うとされ、個人的な関係の良さにも進展への期待が高まっていた。

 領土問題解決策の一つとして注目されたのが、谷内正太郎政府代表が4月に言及した「3・5島返還論」。首相は外相時代に国会答弁で同様の発言をしており、首相の本音を反映したものと推測された。大統領の「後ろ盾」であるプーチン首相も5月の来日時に、3・5島返還論も含め「あらゆるオプションが7月に話し合われる」と明言していた。

 しかし、麻生首相自身の「北方領土不法占拠」発言、改正北方領土問題等解決促進特別措置法の成立などでロシア側は態度を硬化させた。いわば両国は協議を巡る環境整備に失敗したわけだ。「原油価格が復調傾向でロシアは強気。領土問題を進展させない言い訳を与えた」(外務省幹部)ことで進展に向けた機運は大きくしぼんだ。また、ロシアが末期症状を呈している麻生政権を相手に領土問題を前進させる可能性は低かったとみられ、政府高官は「領土問題解決には、安定政権が必要だ。今は忍耐の時だ」と語った。

 ◇首相「不法占拠」答弁・改正北特法 露の神経逆なで

 ロシア側は領土交渉継続で日本側と一致したが、プリホチコ大統領補佐官(外交問題担当)は「解決に時間の枠を設定するのは適当でない」と語り、早期解決が困難になったことを示唆した。

 その背景には麻生首相の「日本固有の領土」発言や「四島は日本固有の領土」と明記した改正北特法の成立など日本側の動きに対するロシア国内の強い反発がある。メドベージェフ大統領は会談で、麻生首相に「こうした行為は対話に必要な友好的な雰囲気を生まない」とクギを刺した。

 日本側は一連の言動について「従来の主張と変わらない」と指摘するが、ロシアの上下両院は、改正北特法が撤回されるまでの領土交渉の中止などを求める声明を採択。9日付のイズベスチヤ紙は「改正北特法の撤回が見込めない以上、ロシア議会は『領土問題は存在しない』とした1980年代末までの旧ソ連の立場に回帰するよう(政府に)提案しているのに等しい」と指摘した。

 ロシア外務省は「日本側と協議すれば、議会の意思に逆らったと反発される」(ロシア外交筋)難しい状況に追い込まれ、ほとぼりを冷ます必要に迫られたといえる。

 ただ、こうしたロシア議会の反応の背後には、日本側の対応に神経を逆なでされたと受け取ったメドベージェフ大統領やプーチン首相の意向があるのは間違いない。

 一方で、こうしたロシア側の動きは、日本が主張してきた「四島返還」は絶対に受け入れられないというロシア政権の姿勢を日本側に伝えようとしたとも取れる。プリホチコ補佐官は「日露両国民が納得した決定のみが問題解決を可能にする」と語り、領土問題でロシア側の譲歩を期待する日本をけん制した。【ラクイラ大木俊治】

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 ◆今年の日露関係の動き◆

2・18 サハリンで首脳会談。領土問題について「新たな、独創的で型にはまらないアプローチ」による解決で一致

4・17 谷内正太郎政府代表(前外務事務次官)が「3.5島返還論」に言及したインタビュー記事を毎日新聞が掲載

5・12 東京で首相会談。プーチン首相が「あらゆるオプション」を話し合う用意を表明

5・20 麻生首相が「(北方領土は)ロシアの不法占拠が続いている」と国会答弁

5・29 メドベージェフ大統領が河野雅治駐露大使の信任状奉呈式で、「クリル諸島(北方領土)に対するロシアの主権を疑問視する最近の日本側の試みは一方的で、受け入れられない」と発言

6・11 衆院が北方領土を「我が国固有の領土」と明記した北方領土問題等解決促進特措法(北特法)改正案を全会一致で可決

6・24 ロシア下院が日本に北特法改正の撤回を求める声明を採択

7・ 3 改正北特法が参院で可決、成立

7・ 7 ロシア上院が改正北特法に抗議し、ビザなし交流凍結を求める声明を採択

7・ 9 伊・ラクイラで首脳会談

毎日新聞 2009年7月10日 東京朝刊

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