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高校野球!!

【歓声が聞こえる 09高校野球】

(1)始まりと終わり/胸の名僕らのチーム

2009年07月01日

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女子ソフトボール部が練習する後ろでキャッチボールする徳田雄雪(中央)=山村学園

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弟の森健人(中)と並び、寄居城北のユニホームを着て指導を受ける川本の森勝吾=寄居城北

◇山村学園VS寄居城北・川本

 グラウンドの一角で、野球部員たちがキャッチボールに励む。肩が温まった頃、主将の山田耕人(2年)が声を張り上げた。

 「撤収!」

 内野の守備練習を終えた女子ソフトボール部が、打撃練習を始めたからだ。

◇共学1期生が創部

 「ライト(右翼)を借りてもいいですか」

 山村学園(川越市)の練習は、山田が女子ソフト部に頭を下げることから始まる。

 創立約90年の高校だが、野球部ができたのは昨年。少子化の影響などで昨春、女子校から共学になった。その際、男子1期生84人のうち12人が入部した。今年、県高校野球連盟への加盟が認められ、夏の埼玉大会に初出場する。

 野球部専用の練習場所は、縦約25メートル、横約10メートルのグラウンドの隅。練習はティー打撃やバントなどに限られる。監督の井上雅彦(45)が、ホームセンターで鉄パイプとゴルフ用のネットを買い、約2メートル四方の防球ネットを作った。朽ち木を切ってトンボも組み立てた。日没後は、車のヘッドライトが照明代わりだ。

 「ああ、またか……」

 昨年9月の練習試合。ベンチで記録をつけていた徳田雄雪(ゆうせつ)(2年)は、相手が本塁を次々に駆け抜けるのを、ぼうぜんと見つめていた。2回に10失点、9回に13失点。被安打や失点を表すペンの色で、スコアブックは真っ赤になった。5―48の大敗だった。

 「心が折れた」「やる気が出ない」。3人が退部し、部員は9人ぎりぎりになった。

 「自分が投げていたら」。徳田は投手だったが右ひじを痛め、昨夏に手術していた。再起を誓い、仲間と下半身の強化に取り組んだ。冬の間、校庭で重さ約20キロの古タイヤを引きずり、走り続けた。

 そして5月。練習試合で初めて登板の機会が来た。6回まで3失点に抑え、4―4の引き分けに持ち込んだ。「ちゃんと試合が成り立つようになった」と手応えを感じた。1年生3人が入部し、再び12人のチームに戻った。

◇弟の学校と「連合」

 部室のクリアケースにしまわれたままの、「母校」のユニホーム。袖を通さなくなってから、もう1年になる。

 川本(深谷市)の森勝吾(3年)は放課後、自転車にまたがり、約40分かけて練習に向かう。たどり着く先は、寄居城北(寄居町)のグラウンドだ。試合用のユニホームに着替えると、左胸には「寄居城北」の文字だけがある。

 「もっと声出せよ」。遠慮なく指示を飛ばす。そこにいるのは1、2年生ばかり。自分が唯一の最上級生だ。

 昨春、川本には新入生が一人も入ってこなかった。寄居とともに寄居城北として統合されることが決まり、生徒の募集をやめたからだった。

 当時の部員は、先輩と2人だけ。別の高校の練習に参加させてもらったが、物足りなかった。「頑張っても、喜び合える仲間がいない」。どこか冷めた気持ちがあった。

 転機になったのは、昨夏の大会。寄居と一緒に、新設された寄居城北と県史上初の連合チームを組み、初戦で延長サヨナラ勝ちを収めた。やっと「仲間」ができた。

 直後の夏休み、中3だった弟の健人に声をかけた。

 「寄居城北に入れ。お前の力が必要だ」

 小学校で一緒に野球を始めた健人の方が、実力は上だと思っていた。自身最後の夏に向け、戦力にしたかった。

 「連合チームになってからの兄は、真剣に野球に取り組んで格好良かった。一緒にやりたい」。健人は、複数の高校からの誘いを断り、寄居城北に入った。今夏の大会も、寄居城北と川本は連合で出場する。兄弟で学校は違うけれど、同じチームになった。

 勝吾を慕うのは、野口孝之(2年)も同じだ。納得するまでノックを受ける姿に「今年が最後だという3年生の気持ちの強さを教わった」。

 主将を務めるのは野口だが、勝吾は「自分が引っ張っているチームで勝負できる。野球が楽しい」と胸を張る。後輩たちと食事をして、異性の話などで盛り上がる。もう学校や学年の壁を感じない。

 初戦の相手は山村学園だ。11日の1回戦で対戦する。野口は「森さんのためにも一つでも多く勝ちたい」と意気込む。山村学園の山田も「川本が背負うものは大きいけれど、初出場を飾りたい。気持ちの強さでは負けない」と火花を散らす。

 譲れない夏が、始まる。

   ◇   ◇

 第91回全国高校野球選手権埼玉大会(朝日新聞社、県高野連主催)が10日、開幕する。この夏にかける様々なチームや選手の姿を追う。=敬称略

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