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スポーツ報知大阪版>コラム>菊地陽子 あしたのヨー

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ボクサーの引退(下)~金光佑治さんとジムの決断

引退会見でチャンピオンベルトを肩にかけた前日本ミニマム級王者の金光佑治さん。現在はジムでトレーナーの仕事を手伝いながら、競艇選手を目指すために勉強している

 「観客の方の中で誰かお医者さんはいませんか?!」6月13日に亡くなったプロレスラーの三沢光晴さん(享年46歳)が意識不明になった時、リングアナウンサーが客席に呼びかけていた。プロレスのリングサイドにドクターが待機していない事実に、正直驚いた。社長業との2足のワラジで心労もたまっていたという三沢さん。当日の動きは精彩を欠いていたという関係者の話もあった。コミッション制度のないプロレスの場合、本人が申告しないのなら、周囲が察知する以外に体の異常を訴える手段がない。

 本当の強さとは何だろう。5月に引退を発表した前日本ミニマム級王者の金光佑治さん(24)の会見で考えさせられた。3月21日の同級王座決定戦で辻昌建選手と激闘の末に10回逆転TKO勝ち。対戦相手の辻さんは意識を失い、緊急開頭手術を受け、金光さんも試合後に頭が痛くなった。所属の六島ジムの枝川孝会長は取材を切り上げさせてすぐに病院に直行させた。大阪に帰ってからも再検査を受けさせた。会長は言う。「普通のジムならここまでしてないかもしれんな。ちょっと頭痛いくらいはよくあるもんやから」。辻さんは試合の3日後に急性硬膜下血腫で亡くなった。

 4月7日、再検査のレントゲン写真から試合直後には映っていた血のかたまりがきれいに消えていた。これは、血腫が試合のダメージによるものという証拠。(生まれつき血腫がある場合は問題ないという)ジムはJBC(日本ボクシングコミッション)に報告し、引退勧告を受けた。試合から2週間たつと吐き気はすっかり消えた。金光さんが「体は元気なんです。試合も出来そうな気もします」と話した時、そんなものなのか、と思った。「他にも同じような打撃戦で血腫が出ている選手は絶対いるで」と会長。ただ、のど元過ぎれば、で試合直後に検査を受けない限り気づくことはない。そして、次の事故の可能性を抱えたまま、多くの選手が試合をしているのかもしれないのだ。

 枝川会長が徹底して検査を受けさせ、引退させた理由は、事故の悲劇を身をもって知っているからだ。05年、現WBAスーパーフライ級王者・名城信男が日本タイトル戦で戦った田中聖二さんが試合後の急性硬膜下血腫で亡くなっている。そして、今度は金光さんが戦った辻さんもタイトル戦で全く同じように・・・。プロボクサーのリング禍は1930年以降、辻さんで35人目。同じジムの選手が戦った相手が2人もこの世を去ることはなかっただろう。ボクサー経験のない会長がもり立ててきた新興ジムが、設立9年目で2人も日本王者を誕生させた。それなのに堂々と喜べない。「殺人パンチを教えてください」という嫌がらせ電話もかかってきた。「なんでうちのところだけなんや…」会長やスタッフの苦悩は想像を絶するものだ。

 金光さんの試合から3日後の3月24日、私は名城の練習を見にジムへ行った。ちょうどそのとき、顔が2倍に腫れあがった金光さんがチャンピオンベルトを取りに来た。「辻、あかんかったって」「そうですか」トレーナーから訃報を聞かされた時の彼のなんとも言えない表情は忘れられない。それでも、ベルトを友人や母に見せるのだと自宅に持って帰る時の、隠しきれない、うれしそうな表情もまぶたに焼き付いている。金光さんはジム設立当初からの練習生だった。本当はチャンピオンとして防衛戦をしたかっただろうし、ジムもさせたかっただろう。

 JBCはここ数年、選手の負傷歴をデータベース化するなど、リング禍防止へさらに健康管理体制を強化している。競技は違えど三沢さんの事故の衝撃もあり、海外のリングで現役続行に固執し続ける元WBC世界バンタム級王者の辰吉丈一郎(38)にとっては完全な逆風だろう。辰吉の場合も、所属していた大阪帝拳ジムが健康管理を理由に猛烈に現役続行を反対してきた。それでもリングに立ち続け、これはもはや周囲の責任の話ではなくなっている。

 辰吉に話を聞くたび、06、07年にオリックス担当として取材していた清原和博さんのことを思い浮かべることがあった。全盛期のパフォーマンスができるかどうかはともかく、圧倒的なカリスマ性は衰えることはないし、ファンの立場なら「また見たい」と思う。潔く表舞台を去る決断も、ファンの前に立ち続ける決断もそれぞれが生きざまだろう。だが、この何か月の間に「引退」という境界線をまたいだ数人のボクサーに接して、改めて思った。野球とボクシングは競技の持つ性格が違う。「命を懸けて」という言葉がかっこいいのは、生きている間だけではないかと。

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(2009年7月6日12時37分  スポーツ報知)

筆者略歴  菊地 陽子(きくち・ようこ)

02年入社。大阪府出身。文化社会部での宝塚歌劇、運動部でのオリックス担当などを経て、昨年からボクシング担当。リングサイドでの初取材では、ボクサーの鮮血が顔にかかって卒倒しそうになったが、今ではすっかり拳闘の魅力にハマっている。

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