107人の死者と562人の重軽傷者を出した尼崎JR脱線事故で、神戸地検はJR西日本の山崎正夫社長を業務上過失致死傷罪で在宅起訴した。現職社長の立件は鉄道事故としては極めて異例である。
予見可能性を示す決定的証拠がないままの起訴であり、今後、公判での有罪立証には高いハードルも予想される。また「社長を狙い撃ちした無理な捜査」との声もある。だが、JR西は、あらためて厳格な安全管理を求められたものと重く受け止めなければなるまい。
山崎社長は、事故発生時は子会社の社長をしていたが、現場が急カーブに付け替えられた1996年には常務取締役鉄道本部長で、安全対策の最高責任者だった。
捜査では、事故現場の急カーブの具体的な危険性をJR西が認識していたような記録は見つからず、山崎社長は「予測できなかった」と主張。昨年9月、兵庫県警が元担当幹部9人と死亡した運転士の計10人を同容疑で書類送検した際は、山崎社長に「厳重処分」に次ぐ「相当処分」の意見を付けていた。
今回、地検が起訴に踏み切ったのは、自動列車停止装置(ATS)があれば事故を防げたのに、最高責任者であった山崎社長が設置を怠ったと判断したためだ。
JR西は現場を急カーブに付け替える一方で快速電車を大幅増発していたこと。付け替え直前にJR函館線の急カーブで起きた事故の報告を山崎社長が社内会議で受けていたこと―などの状況証拠を積み上げながら「事故を予測し、ATS設置の判断ができたのは山崎社長だけ」との結論を導き出した。
ほかの幹部については、ATS設置を指示する権限がなかったことや、知識、経験から予測は困難だったとして、いずれも嫌疑不十分で不起訴にした。
地検は26日、遺族や被害者への説明会を開く方針という。
JR史上最悪の惨事から今年で4年を迎えた。だが、遺族らの悲しみや苦しみは癒やされてはいない。遺族でつくる「4・25ネットワーク」は、遺族が参加の検証委員会を設置するようJR西に要望している。
JR西は昨年4月からスタートさせた安全基本計画で、事故の危険性を事前に分析・評価する「リスクアセスメント」を導入したが、それが機能するためには、風通しのよい職場であることが前提だ。社長起訴という事実を安全優先の企業風土づくりへの警鐘とすべきだ。
中国新疆ウイグル自治区ウルムチ市内で発生したウイグル族住民の暴動は、漢民族側による数万人規模の抗議行動に発展し、さながら民族抗争の様相を呈してきた。1949年の中国建国以来、当局が認めた少数民族による暴動としては最大規模である。
胡錦濤国家主席は急きょ、主要国(G8)首脳会議(ラクイラ・サミット)への参加を取りやめ帰国した。共産党指導部の強い危機感の表れといえよう。
中国外務省は、暴動は世界の亡命ウイグル人組織を束ねる「世界ウイグル会議」(本部ドイツ・ミュンヘン)が扇動したと主張する。一方、同会議の主席で米国に亡命中の女性活動家ラビア・カーディルさんは、扇動したとの指摘を「完全に誤りだ」と否定している。
中国の少数民族は55。全人口の1割弱を占める。自治区は新疆ウイグルを含めて五つあり、各民族は憲法で平等が保障され、各自の言語を使うことができるとされている。
中国政府はまた「民族や宗教の問題ではなく、反暴力、反独立の問題」としているが、今回の暴動の背景に、昨年3月に起きたチベット自治区の大規模暴動と同様、人権侵害や同化政策、表現や宗教の自由への抑圧がなかったとはいえまい。
さらに漢民族による前例のない大規模抗議行動が起きたことは、「安定と団結」を名目にして力で抑え込む中国の民族政策が限界点に近いことを示しているといえる。
国連の潘基文事務総長は、平和的な対話を呼びかけ、ピレイ国連人権高等弁務官は「透明で独立した立場からの調査を求める」との談話を発表した。
中国政府はこうした国際社会の声に、今度こそ真剣に耳を傾け、実行しなければならない。
(2009年7月9日掲載)