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更新:7月8日 10:00デジタル家電&エンタメ:最新ニュース

リアルタイム視聴にしがみつくテレビ局に残された時間

 いわゆる「テレビパソコン」によるテレビ視聴が、2年後には視聴率調査の対象に追加されるそうである。それはそれで正しい話であるが、「焼け石に水」という感もある。テレビ局の意識がこのまま変わらなければ、取り返しのつかないことになるような気がするのだが。(江口靖二)

 地上波民放テレビは、テレビ局が放送する番組に対し、企業が広告を出し、視聴者は番組とともに広告を見るというビジネスモデルだ。番組の制作費は企業の広告費で賄うので、コンテンツは無料である。厳密には、商品・サービスに広告宣伝費が上乗せされており、消費者が間接的に費用負担をしているのだが、視聴者という立場で受信料を取られることはない。

■視聴率はテレビ広告取引の通貨単位

 このモデルは50年以上にわたって維持され、受け入れられてきた。それはテレビ局だけでなく、広告主、広告会社、そして視聴者が“四位一体”で作り上げた結果であり、50年間も継続できたのはすばらしいことだ。だが、さすがに限界が出てきている。

 その1つが、テレビCMの広告費の算出基準となる視聴率だ。この数字を元にGRP(Gross Rating Point=視聴率とCMを放送した回数を掛けた数値の総和。「総視聴率」ともいう)から価格が決定される。ちなみに、日本の視聴率計測は、現在ではビデオリサーチが実質的に1社で独占している。これは決して排他的な成り立ちではなく、過去には他の企業が参入したり参入を試みたりしたことがあったが、結果的にビデオリサーチ1社に落ち着いた。

 そのビデオリサーチが7月2日、パソコンによるテレビ視聴を視聴率計測の対象に加えると発表した。それが今回のテーマだが、実施は地上デジタル放送に完全移行する2011年7月、いまから2年も先である。

 ご存じでない人もいるかもしれないが、同社の視聴率は関東地区の場合、600世帯のモニターを無作為抽出して、テレビに接続した計測装置でデータを収集している(ビデオリサーチ「視聴率ハンドブック」より)。現在はテレビによるリアルタイムの視聴状況のみを計測しており、録画されたものや、いわゆるテレビではないテレビパソコン、ワンセグによる視聴は計測対象ではない。当然、視聴率にも反映されない。

■リアルタイム視聴にこだわり続けるテレビ局

テレビのかわりに地デジチューナー付きパソコンの購入を検討する消費者も

 言うまでもないが、私たちの生活様式の変化や、録画機器の進化、加えてテレビパソコンやワンセグなどの視聴機器の普及を考えれば、現在の視聴率計測による数値以上にテレビ番組が見られていることは明らかである。つまり数字が上がるわけだから、こうした数値を上乗せしようというのは当然と言えば当然である。

 ではなぜ今まで実施されてこなかったのだろうか。あるいはなぜ2年も先という時間のかかる話なのか。

 テレビパソコンや録画機器、ワンセグなどの視聴も計測の対象にすべきかどうかという議論は、以前からあった。それがこうも鈍い動きなのは、リアルタイム視聴に固執するテレビ局の存在があるからだ。今回のテレビパソコンもリアルタイム視聴を計測範囲に加えるだけで、録画視聴やワンセグについてはまだ研究段階のようである。米国のテレビ番組・映画配信サービス「hulu」のようにオンラインで番組を大規模に提供するなどという動きは日本ではまだまだ影も見えない。

 なぜテレビ局があくまでもリアルタイム視聴にこだわるのか。それはひたすら変革を好まないからである。一斉同報メディアとしての力を過信するあまり、未だに視聴者に対し放送時間に家のテレビの前に座ることを求めている。テレビ局幹部の中にはいまでも「放送時間に見てほしい」と言い切る人が少なくない。

 その理由としてよく挙がるのが、企業の期間限定キャンペーンなどのCMだ。録画視聴では、キャンペーン終了後に見た視聴者が混乱してしまうという。しかし、それは録画なのだから当然であり、視聴者側の問題である。1週間前の新聞広告を今日見た読者が、新聞社や広告主に対してクレームをつけるとでも言うのだろうか。

 一部のHDDレコーダーには、録画内容から再生、CMスキップの履歴まで、さまざまなデータを収集する機能を持った製品がある。その機能はいまのところ、使われていないか、ケーブルテレビなど閉じた世界で利用されているに過ぎないが、技術的に大きな可能性がある。例えば前述した賞味期限切れのCMの件も、視聴者が録画視聴するときにネットワーク経由で旬の広告に差し替えるなど、技術で解決しようと思えばできる問題だ。

■あと2年、もう待ったなし

 振り返れば、地上波テレビのビジネスモデルはこれまで1ミリも変わっていない。デジタル放送への移行もビジネスモデルには一切変化を起こさなかった。起こそうと思えばいくらでもできたのに、テレビ局はこれを完全否定し続けた。それほどまでに、変革を望まなかった。50年間継続したビジネスモデルに完全依存してきたツケが今回っているのだ。

 話はひたすらシンプルだ。テレビ局の番組はまだまだ面白い、いや面白くすればいい。ただ技術の発展により、録画やオンライン、移動中など、放送時に家のテレビの前に座ることを強制されない視聴手段が現実のものになっている。それをお金に換える知恵を出せばいい。それだけのことだ。

 好意的に捉えれば、今後2年間で中途半端ではない変革はまだまだ可能と期待しよう。一番怖いのはこのまま予定通りアナログ放送が停波して「じゃあもうテレビなんかいらない」という人が続出する日を後悔の念で迎えることだ。

※このコラムへの読者の皆様のご意見を募集してます。こちらをクリックすると、今回のコラムに関するコメントを受け取るための専用ページが開きます。(NIKKEINET外部にある江口氏個人のブログサイトにリンクしています)

[2009年7月8日/IT PLUS]

-筆者紹介-

江口 靖二

デジタルメディアコンサルタント

略歴

 1986年慶應義塾大学商学部卒、慶應義塾大学新聞研究所修了、日本ケーブルテレビジョン(JCTV)入社。技術局、制作局、マルチメディア室、経営企画室を経て開発営業部長。CS、BS、地上波の番組制作、運用を経験。00年AOLジャパン入社、コンテンツ部プログラミングマネジャー。02年プラットイーズ設立に参画し放送通信領域のコンサルティングに従事。08年独立。現在デジタルサイネージコンソーシアム常務理事、慶應義塾大学DMC機構研究員、シェフィーロ取締役などを兼務。

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