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新型インフルエンザ
“後遺症”で苦しむ医療機関
公的支援の概要は月末にも
2009.7.8
新型インフルエンザの診療に携わった医療機関が経営的な打撃を被っている。感染対策品の購入や新型以外の患者の受診抑制などにより、損益が前年同時期より2億円以上悪化したケースも生じていることが分かった。政府は全医療機関が初期診療に当たる方向で方針を転換し、内閣府は今年度の補正予算で必要な手当てをする考えだが、今後予想される「第2波」に備え、地域の医療現場が安心して診療に当たれる環境の整備が求められている。
経営環境が悪化しているのは5月中旬に国内初の集団感染が発生し、疑い症例や患者が集中した神戸の市立医療センター中央市民病院(一般902床、感染症10床)。4月28日から5月末までの損益が前年同期比で約2億1000万円減ったと試算している。プレハブの発熱外来と、遺伝子(PCR)検査でそれぞれ1400万円かかったほか、マスクなどの個人防護用具(PPE)なども含めると、今回の新型対応で発生した費用は約4700万円に上る。
医業収入も同期間の実績が前年を約1億6500万円下回った。感染症病棟だけでは患者らを収容しきれず、ほかの病棟を空けたため、入院収入が約1億1000万円減と影響が特に大きかった。予定手術を延期したことも響いた。庶務課長の久戸瀬修次氏は「6月以降の減収もあり、(マイナスの)数字は増える」と語る。
外来でも約5500万円の減少と試算されている。「当院を受診して新型インフルエンザに罹患することを恐れたキャンセル・延期などが考えられる」(久戸瀬氏)。神戸市は5月20日から、全医療機関が診療に当たり原則として患者には自宅療養を促す体制に移行した。
6月19日に公表された政府の運用指針を先取りする形だったが、市内の一般病院・診療所関係者は経験をもとに新型以外の患者の受診抑制が起きたことを指摘する。
公文病院(一般60床、医療療養51床)では、外来患者が以前の3分の1ほどに落ち込んだ。小児科では午前中だけで40〜50人いた患者の足が、5月第4週以降遠のいた。高齢の入院患者が多く、感染予防は当初は新型専用の診察室に裏手の専用口から入ってもらう隔離方式で対応。5月23日からは外来の一角を仕切ってスクリーニングをした。
●慢性疾患管理が中断しない工夫
確定例は1例も出なかったが、理事長の平瀬明彦氏は「来たらうつるという考えからか、患者がまったく来なくなった」と振り返る。診療所も状況は同じで、神戸市医師会幹部によると医業収入は少なくとも2割減、「多いと8割減ほどではないか」との見方さえある。
平瀬氏が課題と考えているのは、通院が必要な慢性疾患の人までもが受診を見合わせたことだ。6月中旬以降、徐々に出足は戻っているものの、「医薬品が2週間程度切れている人が多かった」という。糖尿病などの基礎疾患が重症化のリスクであることも、受診抑制の一因になった。市医師会長の川島龍一氏は、「感染対策を取らないと受診しなくなり、慢性疾患のコントロールもできなくなる」と指摘する。
●減収分の補填は実施されるか
一般医療機関での院内感染対策について政府は、発熱患者とそうでない人の受診待ち区域を分けるなどの方法を提示した。ただ神戸の事例は、対策を講じても受診の手控えはなくならない可能性を示唆する。
新型インフルエンザ対策への財政支援をめぐっては、内閣府が総額1兆円を計上した「地域活性化・経済危機対策臨時交付金」の利用が可能。厚労省健康局は先月9日の事務連絡で、「診療に当たる医師等が感染した場合の補償」「PPEの配備」などを提示した。
都道府県の実施計画は6月末までに提出されている。減収分の補填も申請できるのかという点には、「事務連絡はあくまでも例示」(厚労省)、内閣府地域活性化推進担当室も、「精査は必要だが体制建て直しのためであれば」との見方を示す。
自前経営が求められる一般の医療機関にとって、経営努力が及ばない部分での患者減少は死活問題につながりかねない。都道府県、市町村が、臨時交付金で新型インフルエンザ関連でどのような対策を推進するのか、内閣府は7月末をメドに大枠を固める方向で審査を進めている。
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