第2回つくる会シンポジウム
新しい歴史像を求めて
〜私たちはどんな歴史教科書をつくるのか〜

開催日: 平成9年6月30日
司会: 西尾幹二
基調報告: 坂本多加雄
パネリスト: 伊藤隆・川勝平太
小林よしのり・藤岡信勝
総合司会: 大月隆寛
西尾幹二・・・
 歴史の教科書なんてつくったって、世の中はちっともよくならないと、生意気な批判を浴びせ掛ける人も世の中にはいるようです。しかしご承知のように、中国政府は香港が返還されて、真っ先に手を出したのが歴史の教科書なんです。歴史の教科書から、たとえば天安門事件を削除する、百五十年に及ぶイギリスの香港統治の貢献をまったく認めない、そういう記述に書き換えるという。そういう内容の教科書でなければ、これからは教えないと。そういうものなんです。きょうは、どんな教科書をつくるかというお話を、日本政治思想を専門にしている坂本多加雄さんからお話しいただき、それを基調報告といたします。
坂本多加雄・・・
 私は、内閣あるいは政府がどのような外交政策をとるかといった狭い政治の世界と、歴史教科書の世界とは、本来別のものだと考えております。その時々の政治判断を合理化するようなかたちで歴史教科書が記されるという、そういうかたちは、成熟していない社会の教科書じゃないかー。むしろ日本のような社会においては、個々の政策判断とは独立した歴史教育の課題があるんだと考えております。歴史学というのは、その時々の価値観に拘束されないで、人間の世界には多様なことがあるんだということを学び、視野を拡大するという点が重要だと思います。

 政治の世界においても、友好を深めることもあれば、やむをえず緊張・対立が続くということもある。そうした場合に、そのいずれにおいても対応できるようなある種の精神の構えをつくることが、歴史教育の課題ではないかと考えます。

 もう一点、教科書に書く歴史は、日本国がどのように成り立ってきたのか、日本国と日本国民の歴史を確認する。私たちのアイデンティティを確認する。日本はこういう国柄で、こう考えてきたし、今後もこう生きていくんだということを、われわれの共通の前提として確認する。そういうことが歴史教育の課題ではないかと考えております。

『史』平成9年7月通巻第2号より

このシンポジウムの模様は
『新しい歴史教科書を「つくる会」という運動がある』
に収録されています