私は、内閣あるいは政府がどのような外交政策をとるかといった狭い政治の世界と、歴史教科書の世界とは、本来別のものだと考えております。その時々の政治判断を合理化するようなかたちで歴史教科書が記されるという、そういうかたちは、成熟していない社会の教科書じゃないかー。むしろ日本のような社会においては、個々の政策判断とは独立した歴史教育の課題があるんだと考えております。歴史学というのは、その時々の価値観に拘束されないで、人間の世界には多様なことがあるんだということを学び、視野を拡大するという点が重要だと思います。
政治の世界においても、友好を深めることもあれば、やむをえず緊張・対立が続くということもある。そうした場合に、そのいずれにおいても対応できるようなある種の精神の構えをつくることが、歴史教育の課題ではないかと考えます。
もう一点、教科書に書く歴史は、日本国がどのように成り立ってきたのか、日本国と日本国民の歴史を確認する。私たちのアイデンティティを確認する。日本はこういう国柄で、こう考えてきたし、今後もこう生きていくんだということを、われわれの共通の前提として確認する。そういうことが歴史教育の課題ではないかと考えております。 |