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時評コラム

古森 義久の“外交弱小国”日本の安全保障を考える

抗いようがない、米国における日本の地盤沈下

次々と日本の国力低下を憂う識者たち

 公聴会に遅れて参加したローラバッカー議員も発言し、米側では日本が不当に軽視されているという点を強調した。

「日本は米国が国際的な紛争や計画に取り組む際にそれを支援することでは世界一だといえます。しかし不運なことに、米側には日本のその協力を当然視し、重視しない向きが多い。ワシントンの政策決定者たちも日本の真価をきちんと評価せず、その一貫した対米支援の行動を当然と受け取っています。日本を軽視しすぎるのです」

 ローラバッカー議員は日本をもっと重視すべきだと熱弁をふるった。だがその前提は日本軽視の傾向が存在する、ということである。

 この点はグリーン氏も明確に語った。

「米国の政権の内外には、日本はもう使用ずみの用品であり、日本に協力を求めることはもうやめるべきだ、日本は大国ではなく中級国家なのだ、という声がとても多くあります。確かに経済面では日本の沈下は顕著です。今年2月の日本の輸出は前年同期から50%の減少です。昨年第1四半期のGDPの伸びはここ35年間の最悪です。日本の国家財政の赤字はGDPの170%に達しました」

「安保面でも国会は混乱そのものです。政界再編成が達せられるまでには多くの年月がかかります。こんどの選挙で民主党が勝っても、この政党が実際になにをするのか、分かりません。公約どおりならば在日米軍の地位協定をも見直すというのですが、現実に何をするのか、不明であり、混乱が予測されます」

 これまた日本は混乱の最中にあり、全体としてその比重を落としていくことは確実だというような発言である。日本沈没という展望のほのめかしともいえようか。

 カルダー氏の証言も日本の混乱を予告していた。

「日本のいまの混乱した政治状況をみると、どうしても政治の変化も政策の変化も、長い時間がかかることが明白です。政界が再編成され、政治や政策の混乱や錯綜が正常にもどるまでには、多くの年数がかかります」

 アレクサンダー氏の証言も日本の混乱をはるかに越えて、国力の縮小、つまりは沈下や沈没の展望をもっとあらわに指し示していた。

「日本の人口は年老い、縮小しています。日本国民の世界でも最低の出生率、最長の寿命は幼児の数が減り、高齢者が人口全体でより大きな比率を占めることを意味します。2040年には日本の人口は現在よりも15%少なく、1973年の水準へと下がるでしょう。予見しうる将来、日本の経済は世界各国の中でも第三位と第四位とかに留まるでしょう」

 要するに、日本はそう遠くない将来、経済面でも世界第二位という座を失うことになる、というのだ。こうした日本のパワーの縮小が日米関係でも「日本の沈没」として映ってもふしぎはないだろう。

 この議会公聴会で発言した議員たちや、証人たちはみな日本がそのような沈没をしてはならない、という意見を強調していた。日本は米国にとっての超重要なパートナーに留まるべきだとも提言していた。だがそんなレトリックとは対照的に、いまの米国には「ジャパン・パッシング」や「ジャパン・シンキング」の流れがどうも目立つのである。

古森義久氏のコラム「“外交弱小国”日本の安全保障を考える」は、09年4月14日まで「SAFETY JAPAN」サイトにて公開して参りましたが、09年4月28日より、掲載媒体が「nikkeiBPnet」に変更になりました。今後ともよろしくお願いいたします。また、古森氏の過去の記事は、今後ともSAFETY JAPANにて購読できますので、よろしくご愛読ください。
古森 義久(こもり・よしひさ)
東京生まれ。63年、慶應義塾大学経済学部卒業後、ワシントン大学留学。毎日新聞に入社して72年から南ベトナムのサイゴン特派員。75年、サイゴン支局長。76年、ワシントン特派員。81年、米国カーネギー財団国際平和研究所上級研究員。83年、毎日新聞政治部編集委員。87年、毎日新聞を退社して産経新聞に入社、ロンドン支局長。89年、ワシントン支局長。94年、ワシントン駐在編集特別委員・論説委員。98年9月から中国総局長、産経新聞の31年ぶりの北京支局再開の責任者となる。2001年からワシントン駐在編集特別委員・論説委員。2005年より杏林大学客員教授を兼務。ミリタリー・バランスを基礎に据えた冷徹な国際関係の読み口に定評がある。
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