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南京大虐殺の生存被害者、夏氏の勝訴は確定しても

      「許す、しかし忘れない」という夏氏に謝罪なし

林田力2009/07/07
 南京大虐殺事件の生存被害者である夏淑琴氏の勝訴を記念する集会「夏淑琴さん名誉毀損裁判 大勝利記念集会」が2009年7月5日に東京・江東区豊洲文化センターで開催された。南京への道・史実を守る会および夏淑琴氏名誉毀損弁護団事件弁護団の共催である。

 夏淑琴さん名誉毀損裁判は夏氏が東中野修道・亜細亜大学教授と展転社を名誉毀損や人格権侵害で提訴した訴訟である。夏氏は1937年に南京市を占領した日本軍が多数の一般市民を虐殺した南京大虐殺で両親や姉妹を殺され、自身も銃剣で刺された被害者である。この夏氏について、東中野修道・亜細亜大学教授は著書『南京虐殺の徹底検証』(展転社)で「『8歳の少女』と夏淑琴は別人」とニセ被害者扱いした。

 この事実を知った夏氏は2000年11月に中国・南京で名誉毀損訴訟を提起した。東中野氏と展転社は中国では争わず、代わりに東京地裁に日本国内での賠償金支払いの債務不存在確認訴訟を起こした。対する夏氏は名誉毀損訴訟の反訴で応じた。

 一審・東京地裁2007年11月2日判決では「被告東中野の原資料の解釈はおよそ妥当なものとは言い難く、学問研究の成果というに値しない」と夏氏が勝訴した。控訴審でも地裁判決が維持され、最高裁が2009年2月5日に上告を棄却することで、夏氏の勝訴が確定した。

 集会は二部構成で、第一部は史実を守る会の総会である。会計報告や役員選出、今後の活動方針発表などを行った。第二部で夏氏をはじめとする訴訟関係者が裁判の意義を語った。

 夏氏は「勝訴は大変嬉しい」と語った。心残りは東中野氏の謝罪がなかったことという。提訴当初から東中野氏に会いたいと主張していたが、東中野氏は一度も来なかった。彼に会って、私が本物であることを認めさせたいと発言した。

 中国側の弁護団長である団シン(至へんに秦)弁護士は最高裁判決が出た2月5日を中日司法史上記念すべき日と位置付けた。その上で夏氏の反訴に至る日中弁護士間の協議の裏話を披露した。東中野氏らが東京地裁で債務不存在確認訴訟を起こしたことに対し、東中野氏らには中国で裁判する勇気はないが、夏氏は本物であるため東京で戦うことができると日中の弁護士は分析した。反訴が決まると日本側は弁護団を結成し、全力で取り組んだ。彼らに日本人の正義や平和を求める信念を見ることができたと称えた。

 日本側の弁護団長の渡辺春巳弁護士は「許す、しかし忘れない」という夏氏の言葉の含蓄を東中野氏は理解すべきと主張した。あれだけの被害を受けながら、寛容の言葉を口にすることは中々できないとした。名誉毀損裁判については日本国民の理性が問われた裁判とする。東中野氏の論拠は「突き刺した」を「突き殺した」と誤訳することなどに基づいた粗末なものであり、それで偽被害者と非難する欺瞞を見破れなければ国民として問題であると述べた。

 守る会共同代表である笠原十九司・都留文科大学教授は南京大虐殺を否定する日本の右翼層の言説は、南京大虐殺被害者を苦しめる第二の加害行為になると強調した。
 また、東中野氏が笠原氏の著書(『南京事件論争史―日本人は史実をどう認識してきたか』)を出版した平凡社に送付した抗議文を読み上げ、東中野氏は反省していないと糾弾した。抗議文では夏氏を別人と書いただけであると正当化し、ニセ証人扱いして夏氏の人格を貶めたことへの反省は皆無である。それ故に史実を守る運動を続け、多くの人に伝えることが大切であると結論付けた。

 事務局からは守る会名義で東中野氏に配達証明で謝罪を求める手紙を送付したが、本日まで返事がないとの報告がなされた。当初の文面は本日の大勝利記念集会に来ての謝罪を求めるものであった。しかし、集会を告知した結果、それが悪用されて右翼に集会が妨害される危険があるため、集会の存在を伏せた文面になったという。

 ここには映画『靖国』上映騒動と同じく、日本社会において戦前を批判する表現や集会の自由の基盤が脆弱であることを実感させられた。そのような現実があるからこそ、日本の戦争犯罪を直視し、歴史の改ざんを許さない運動を広げることが重要になる。そして、そのような運動に取り組む日本人の存在が政府高官の失言などで失墜した日本の国際的評判を回復させ、外国との友好関係の強化に寄与することになると考える。
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