アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
麻生首相の足元がいよいよおぼつかなくなってきた。
首相が自らの手で衆院解散に踏み切れるかどうか。その大事な関門として注目された静岡県知事選は、民主党などが推した川勝平太氏が自民、公明両党が推す候補に競り勝った。
「自公VS.民主」の対決になった大型地方選挙は、これで自公の4連敗だ。今回はとくに、民主党陣営が分裂したにもかかわらずこの敗北である。首相はかねて「地方選挙と総選挙は別」と政局への影響を否定してきたが、とても自民党内は収まりそうにない。
首相はなお12日投票の東京都議選直後の解散、8月初旬の総選挙を思い描いているようだ。だが、静岡に続いて都議選でもし敗北となれば、「麻生おろし」の包囲網が一気に動き出す可能性が公然と語られている。
解散はいつなのか。だれがその時期を決めるのか。そもそもだれを首相候補に掲げて選挙を戦うのか。総選挙はもう目の前なのに、いちばん肝心なところが揺らぎだしている。
麻生政権への国民の不信は根深い。加えて深刻なのは、閣僚・党役員人事の迷走など最近の政権の動きに有権者があきれ、うんざり感を募らせていることだろう。
朝日新聞の世論調査では、与党内の反発で党役員人事を断念した首相の対応を「評価しない」と答えた人が68%に達した。タレント出身で人気のある東国原英夫宮崎県知事への立候補要請についても、これで自民党の印象が「悪くなった」という人が44%いた。
注目されるのは、静岡県知事選の投票率が前回より16ポイント以上も高くなったことだ。都内の有権者を対象にした本紙の調査でも、今回の都議選に「関心がある」人は「大いに関心」を合わせて89%もいた。
いまの政治の閉塞(へいそく)状態を打破するために、自らの一票で意思表示をしたい。静岡や東京だけでなく、全国の有権者にそんな思いが高まっていると見るべきではないか。
総選挙前の首相交代に、全国世論調査で65%もの人が「納得できない」と答えた。不人気の首相のクビをすげ替えたとしても、そんな目くらましではごまかされないということだろう。
前回選挙以来の自民党政権の実績を問い、これからこの国をどうするかを与野党で競い合うのが総選挙の目的だ。地方選挙には政党の勢力の消長を占う側面はあっても、その結果で国政選挙のカオまでを代えてしまえというのは本末転倒である。
その意味で、地方選挙と総選挙を切り離して考えるべきだという首相の主張は正しい。
解散先送りを求める公明党をはじめ、与党の議員に改めて言っておきたい。小手先の策はもう無理だ。
地球温暖化対策は、世界が一丸となって進める必要がある。明日イタリアのラクイラで始まる主要国首脳会議(G8サミット)を、その貴重なステップとしなければならない。
京都議定書に続く温暖化対策の国際的な枠組みは、12月に開く国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)で合意される予定だ。しかし、先進国と途上国の隔たりはなお大きい。
途上国は「温暖化を招いた先進国が温室効果ガスを大幅に削減するのが先決だ」と主張し、先進国は「成長が著しい一部の途上国も削減の努力をしてもらいたい」と訴えている。この溝を早く埋めなくてはならない。
昨年の北海道洞爺湖サミットでG8首脳は「2050年までに世界全体の温室効果ガス排出を半減する必要がある」という点で一致した。今回の首脳宣言ではさらに踏み込んで、「先進各国は50年までに80%以上削減する」とうたい、途上国の積極姿勢を引き出すことが検討されている。
また、首脳宣言に「産業革命前からの気温上昇を2度以内に抑える」との表現を盛り込む案も模索されている。これで合意できれば、温暖化の被害を抑えるための科学的な認識を共有することになる。その意義は大きい。
「2度以内」という上限があれば、先進各国が達成するべき2020年の中期目標や、50年の長期目標もおのずと見えてくる。次期枠組みをめぐる国際交渉にも弾みがつくはずだ。
G8サミットと並行して開かれる主要経済国フォーラム(MEF)では、先進各国と中国、インドなどの新興国が、どれだけ歩み寄れるかが焦点だ。MEF各国で世界の排出量の約8割を占めており、議論の流れは次期枠組みの国際交渉の行方をも左右する。
まずはG8サミットで先進各国が温室効果ガス削減に前向きな姿勢を打ち出し、途上国・新興国への資金や技術の支援も決める。それをもとに、何らかの削減努力に取り組むようMEFの場で新興国を説得する。二つの会議が車の両輪になるといい。
日本は温暖化対策や省エネの技術支援など、得意な分野で積極姿勢を打ち出せるはずである。先進国と途上国の歩み寄りに貢献する、という意欲を持って臨むべきだ。
この1年で温暖化問題を取り巻く環境に大きな変化があり、昨年とは違う緊張感と期待感が漂っている。歴史的な大経済危機と、環境問題に熱心な米オバマ政権の誕生である。
オバマ大統領は「グリーン経済で危機を乗り越えよう」と訴えている。不況を理由に温暖化対策を後回しにするのでなく、経済を低炭素型に切り替えて不況と温暖化を同時に克服するというものだ。今回のサミットを機にそんな発想を世界に浸透させたい。