コラム
今週の1冊 第2425号/09.06.29

イスラエル

臼杵 陽 著  岩波新書(価格780円)

書籍画像 イスラエル建国の求心的政治イデオロギーにシオニズムがある。このシオニズムにホロコーストへの否定的見方の多いことは意外だった。抵抗せずに殺されたのはユダヤ民族の伝統ではない、というのがその理由らしい。
  イスラエル「建国」の裏には、ヨーロッパを中心としたキリスト教国によるユダヤ差別の長い歴史がある。それが負い目となり、イスラエル建国に有利に動いたと想像させる。だがそれは、ユダヤ人を「厄介払い」したとの側面も否定できないだろう。今日の悲劇はそこから始まる。
  政治的な人工国家であるためにイスラエル国内の矛盾も激化している。外に敵をつくることで形成されたアイデンティティは脆弱だ。イスラエルで市民権をもつパレスチナ人を国外追放しようとする根強い潮流を支持するのは、イスラエル国内の貧しいエスニックグループであり、階層化された差別が息づく国だ。
  パレスチナの植民地化とアパルトヘイト化。神話に呪縛される国家がパレスチナ人にあらたなディアスポラを強いていることの痛みに気づく必要があるだろう。食い足らなさが多いが、イスラエルの一様でない姿を知るには参考になる1冊だ。(安)

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