なぜ、北朝鮮は核やミサイルに執着し、権力世襲を続けるのか−北朝鮮研究の先達、玉城素さんならどう解説してくれるだろうか。
昨年九月、八十二歳で亡くなる直前までの論文を集めた「玉城素の北朝鮮研究−金正日の10年を読み解く」(晩聲社)が発刊された。遺稿集でもある。
「銃爆弾精神、自爆精神で突っ込む以外に、金正日独裁集団が自ら作り出した悪循環構造を解決する道は残されていない」
玉城さんが北朝鮮研究を始めたのは一九六〇年代だ。その手法は北朝鮮の数少ない公開情報だけを材料にする特異なものだ。無理な計画経済を続けざるをえない構造的欠陥により、経済は必ず衰退すると指摘する論文を次々と発表する。
当時、日本には社会主義願望が色濃く残り「北朝鮮は地上の楽園」が信じられていた時代だ。玉城論文は十年以上も無視されたままだったが、やがて、北へ移住した在日朝鮮人から惨状が漏れ伝わるなど、論文の正当性が裏付けられる。
盟友の朝鮮研究家、佐藤勝巳さんは「北朝鮮現代史の開拓者だ。収入、名声にまったく結びつかないことを知的好奇心だけで追究してきた」と惜しむ。筆者もことあるごとに教えを請うた。厳しく分析をしつつも温和な表情を崩すことがなかった姿を思い出す。もう少し北朝鮮の行方を見てほしかった。 (小林一博)
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