NHKの台湾偏向番組に抗議するデモ行進を私が実際に目撃し、共感した経緯を雑誌『正論』に報告として書きました。
その内容を紹介します。
渋谷の駅前から乗ったタクシーが速度を落とし、ほとんど止まってしまったので、おやっと思った。
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ハチ公前から西武百貨店の角を左に曲がり、宇田川町の雑踏を抜けて、NHK放送センター前に差しかかったあたりである。五月三十日土曜日の午後のことだった。
私は日ごろアメリカの首都ワシントンに産経新聞特派員として駐在するが、所用のためにごく短期、東京に戻っていた。
渋谷で知人と昼食を兼ねての会合をすませ、ちょっとした買い物をして、NHKの先にある参宮橋地域の自宅に帰るところだった。
前方には車の列が連なり、その前の車道の左端を整然と歩いていく人間の集団があった。
騒ぎを感じさせない静かな人の列とはいえ、明らかになにかの行進だった。
と、「NHKに抗議」というようなプラカードが目についた。
あっと、すぐに気づいた。
NHKが最近、放映した台湾と日本の関係についての番組への抗議のデモにちがいない。
「NHKは―」というようなシュプレヒコールも聞こえてきた。
私はタクシーを降りて、デモ行進をこの目でみることにした。
抗議の対象となる番組についてはすでに知っており、私自身もその内容にひどい偏向を感じていたことがそうさせたといえるだろう。
抗議を受けたのは四月五日放映の「シリーズJAPANデビュー第1回 アジアの“一等国”」という番組だった。
私もその時点までにDVDでみていた。
その内容の偏りやゆがみはすでに多くの識者から指摘されたとはいえ、台湾を一九九七年以来、何度も訪れ、李登輝総統はじめ官民の幅広い層の人々と接触した私としても台湾を「反日」一色で描いたこの番組には唖然とし、憤慨した。
台湾の人たちは日本や日本人に対してはこちらがびっくりするほど温かいまなざしや息吹きを向ける。
北京に駐在していた当時、台北を訪れると、砂漠からオアシスにきたように感じたものだった。
日本の過去の統治についても「よかったことが多々あった」と率直に述べる人ばかりなので、当初は信じられないほどだった。
ワシントンから、あるいは東京から台湾を訪れ、地元の各界の人々と接しても、この親日の印象は変わらなかった。
最初のころは相手方がこちらを日本の新聞記者とみての社交辞令や誇張かも知れないと疑った。
だがより広範な台湾人に接すれば接するほど、日本に対して温かい言葉や態度を表明する人たちが多いのだった。
日本の統治についても若い世代までが「悪くなかった」「よいことが多々あった」「当時の日本は台湾に対して自国の最もよい面をみせたようだ」というような感想を述べるのだ。
両親や祖父母の直接の体験を聞いての判断だ、などと告げるのだった。
とくに台湾の南部や中部を訪問したときに日本人だからという理由で受けた歓迎のぬくもりも忘れがたい。
だがNHKのその番組は冒頭から暗く重苦しい音楽と映像とで台湾人たちの日本への態度を憎しみや怒りだけに染め上げて提示していた。
産業、教育、文化、衛生など日本が台湾で実践した善の数々はこちらがなにも問わなくても、台湾の多くの人々がごく自然に教えてくれたのに、このNHK番組はその日本統治のポジティブな側面は一切、無視なのである。
そのうえ、日本がロンドンでの博覧会で台湾の先住民の人たちを「人間動物園」として見世物にしたなど、まったくのウソを伝えていた。
私はこの番組に激しい抗議が起きたことをも知っていた。
当然だと思った。
五月十六日にはNHKに対する抗議デモがかなりの規模で実施されたことをインターネットでの報道などにより知った。
五月十八日には識者多数の同番組への非難が「NHKの大罪」という大見出しの全ページ意見広告として産経新聞に掲載されたのも読んでいた。
(つづく)
by 古森義久
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