コラム

2009年07月06日号

【検察と政治】
波紋を広げる鳩山民主党代表の政治資金収支報告書の虚偽記載問題
本誌編集長は「鳩山氏の秘書に、こういうルール違反をやられ、告発状が出されると1番困るのは小沢、鳩山前・現代表が厳しく批判してきた東京地検特捜部なのだ」と斬る


●産経新聞配信記事
 民主党の鳩山由紀夫代表の資金管理団体による政治資金収支報告書の虚偽記載問題が政界内外に波紋を広げている。「鳩山由紀夫を告発する会」を名乗る団体は3日、鳩山氏に対する告発状を東京地検特捜部に提出した。

 産経新聞は4日7時56分、「鳩山氏、政治資金の謎 “故人”献金/クリスマス献金/生前贈与?」というタイトルで3つの疑惑を指摘、次の記事を配信した。

□虚偽記載問題 与党、徹底追及の構え

 民主党の鳩山由紀夫代表の政治資金収支報告書の虚偽記載問題が広がる兆しを見せている。自民、公明両党は民主党代表に2代続く「政治とカネ」問題を徹底追及する構え。政界有数の資産家として知られる鳩山氏。その政治資金にはどんな謎や疑惑が隠されているのか−。(水内茂幸)

【疑惑1】

 鳩山氏の資金管理団体「友愛政経懇話会」の個人献金は年間5000万円〜1億1000万円と政界でも突出している。ちなみに麻生太郎首相への個人献金は年1000万円を超すことはまれで5万円以下の匿名献金は1割以下だ。

 鳩山氏はこれを「クリーンさ」の証として、企業・団体献金の廃止を声高に唱えてきたが、6月中旬、自慢の個人献金に突如疑惑が浮上した。友愛政経懇話会の政治資金収支報告書に死亡した人が多数含まれていたのだ。存命であっても「献金の事実はない」と証言する人も出てきた。

 鳩山氏は6月30日に釈明会見を開き、平成17〜20年の4年間で計90人193件が虚偽記載があり、総額2177万8000円に上ることを明らかにした。

 この後、鳩山事務所は収支報告書を修正したが、虚偽記載分を削除。平成17年に5万円以上の個人献金を行った人は70人から18人、18年は51人から13人、19年は64人から16人−といずれも激減した。つまり報告書の個人献金は8割が虚偽だったことになる。

 加えて、収支報告書に氏名を記載する必要がない5万円以下の個人献金にも疑惑が浮かぶ。鳩山氏の場合、17年だけで3682万円にのぼり献金全体の59%を占めるが、単純計算で700人以上から献金を集める必要があるからだ。

 政治資金規正法では一個人が同じ資金管理団体に寄付できる額は年間150万円までと制限されている。ある自民党関係者は「鳩山氏は特定の個人から上限額以上の献金を受けとるために架空の個人献金をでっち上げたのではないか」と疑いの目を向ける。

【疑惑2】

 もう一つ、鳩山氏への個人献金で目を引くのが、地方議員からの献金だ。

 地元・北海道9区の道議、市議、町議ら42人は、鳩山氏が代表を務める「民主党北海道9区総支部」に毎年数十万円を献金。その合計は5年間で1650万円にのぼる。

 しかも献金日は毎年12月25日のクリスマス。平成17年のクリスマスは日曜日で銀行振り込みはできないはずだが、やはり巨額の献金が計上されていた。クリスマスの日曜日に1人1人から集金して回ったのか。ある自民中堅は「地方議員が国会議員に献金するなんて聞いたことない。ましてや政界有数のお金持ちに上納する必要なんてあるのか」と首をひねる。

【疑惑3】

 一連の疑惑で、自民党がもっとも注目しているのが、偽装献金の原資だ。鳩山氏は「資金管理団体の収入不足に充てるために個人資産を活用した」と説明するが、団体は毎年繰り越し金があり、収入不足とはいえない。

 弁護士は「秘書は鳩山氏から約1000万円の預け金をもらい、この中から支出していた」と説明するが、これも理由がはっきりせず不自然だ。

 ただ、鳩山氏の母、安子さんはブリヂストンの創始者の長女で資産家として名高い。自民党からは「相続税を払わずに母親から生前贈与を受ける手段として政治団体を使ったのではないか」と勘ぐるが、もしそうならば“脱税”となってしまう。


●鳩山氏らに対する告発を斬る
「鳩山民主党代表を被告発人とする告発状が東京地検特捜部に提出された。産経新聞は鳩山氏に対する3つの疑惑を指摘した。

 鳩山代表も修正しているように鳩山氏の資金管理団体「友愛政経懇話会」の会計責任者が政治資金規正法違反者であることは歴然たる事実だ。こういうことをやられて告発状が出されて1番困るのは小沢、鳩山前・現代表から、これまでさんざん「国策捜査をやった」などと厳しく批判されてきた東京地検特捜部だ。

 いうまでもなく、特捜部は経済刑法の番人であり、厳しいモラルが求められる厳正、公平、不偏不党の公訴機関である。小沢、鳩山氏が批判してきたような国策捜査などやるはずのない政治から独立した機関だ。

 辞任した小沢氏に代わって次期総理大臣候補の本命となった鳩山氏に小沢氏と2代続いて「政治とカネ」の問題を起こすなど考えた人は少なかろう。鳩山氏らに対する今回の告発は民事に例えると、次期社長に対する選任無効の仮処分申請のような、判断に緊急性を要する意思表示だと私は思う。が、今の状況では告発状を提出された特捜部は受理するかどうかさえ、慎重な判断をせざるを得ないであろう。

 総選挙を目前にして、さんざん言いたい放題の批判をしてきた東京地検特捜部に、告発事実について判断をしてもらう羽目になった鳩山氏は恥を知っているのであろうか、私は吉田内閣退陣、鳩山内閣誕生以来の政変劇をみてきたが、小沢、鳩山氏と2代続く民主党の「総理大臣最有力候補」のような例を、寡聞にして知らない。それほど政治史上、例のない異常な政変が起きようとしているという意味だ」


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