Associe かわらばん

2009年6月30日

明るいだけのネットの未来を説くのはもうやめよう

「ネット敗北宣言」の本当の意味【2】

 前回、拙著『ウェブはバカと暇人のもの』のタイトルは、梅田氏を意識してつけたと話した。それは副題の「現場からのネット敗北宣言」である。これに対し、多くの人が「ウェブは負けていない」「ウェブは道具なんだから、誰に負けるんだよ?」と反論した。

ウェブはそこまでのものではなかった

 例えば、ブログマーケティングを行うアジャイルメディア・ネットワーク代表取締役社長の徳力基彦氏は同書のポイントをまとめてくれたり、熱心に読んでくれたうえで「ただ、個人的にこの本を読んで残念だなと思ったのは、この本がマスメディアを置き換えるものとしてのネットの優劣を議論の土台としている点。書籍の副題には『ネット敗北宣言』と書かれていますが、要は『マス』に対する影響力においてはネットはマスメディアにかなわない、という敗北宣言であり、マスメディア vs ネットという土台からくる二者択一の議論のように思います」とブログに書いた。

 この書評に対し、こんな感想が挙がった。「この本、まだ読んでいないけど、見事なまでに読む気が失せたw。かなり限定的な視野で『勝ち負け』に言及しているように思われますね」。ほかにも「チラ見だけなので詳しい内容はよくわかりませんが、レビューなどを見てみると『ネット<マスメディア』という構図を書いているみたいですね(中略)作者の中川淳一郎氏が博報堂出身で現在はニュースメディアの編集者らしいので、偏ったものの見方になるのも仕方ないっちゃ仕方ないかも。何ごとも一方からの視点だけに頼ると全体像を見失いますからね」とアマゾンの「なか見検索」(この人が言うところの「チラ見」)を見た人による感想もあった。

 いや、だから、私は、「勝ち負け」なんて何も書いていないし、「マスメディアの方がネットより強い」なんて言っていないし、どうして広告・広報・マーケ・無職・雑誌・新聞・フリーペーパー・ネットを経験した私が「一方からの視点」でしかものごとを見られないと思うのだ。さらには、「博報堂」というネットでは嫌われる経歴がある(世論誘導をしようとする「企業の犬」で高給取りのクソ野郎、というイメージがある会社)ってだけで「偏ったものの見方」と思われてしまう。そもそも『ウェブはバカと暇人のもの』では、マスメディアとネットの二者択一論など一切しておらず、「結局ネットで皆が話題にするものはテレビ発のネタが多い」「テレビが強いのは認めた方がいい」とただ単に「現状」を提示したうえで「どっちが良いかをその都度考えてネットと幸せなつき合い方をしよう」と提案しているのだ。つーか、読んでから批判してくれよ…。多分、梅田氏はこれと同様の状況を『日本語が亡びるとき』についてブログで書いた時に目の当たりにし、「やれやれ」と思ったのだろう。

 ただし、「ネット敗北宣言」はこう捉えられるのも仕方ない「釣りタイトル」だ。私はネットは全然敗北していないと思うし、これからもネットを盛り上げていきたいと考えている。本では別に「ネットはテレビより影響力が低い。だから負けたのだ」という単純なことを言いたかったわけでもないし、旧来メディアとの比較をしたかったわけでもない。『ウェブはバカと暇人のもの』の192ページでも「そろそろネットを4媒体の延長と考えるのはやめるべきでは?」と提言している。マスとネットを完璧に切り分けて考え、両者をいかに効果的に使い分けるかを提案したのだ。このブログの下の方を読んでほしい。うまく引用してくれている。

 では、「敗北宣言」とは一体何だったのか。実は、もともとタイトルをつける段階から「梅田さん、You、ネット敗北宣言しちゃいなYO! その方がラクになるよ!」という呼びかけを意図していたのだ。ここで言う「敗北宣言」とは、

1 2 3

このコラムについて

Associe かわらばん
仕事にかかわるニュースをアソシエ独自の切り口でお届けする「Associeかわらばん」。日経ビジネスアソシエ編集部の記者をはじめ、外部寄稿者による新鮮な記事を掲載します。

アソシエオンラインメール登録(無料)