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物流業界ニュース

特別インタビュー 国土交通省のトラック行政を聞く

国土交通省 自動車交通局長  本田 勝氏

「正直者がバカを見ない≠スめ不健全な競争状態を是正へ」

「トラックの産業としてのビジョンを落ち着いて考える時期」

昨年前半の軽油の異常高騰に続き、リーマンショック£シ後からの荷動きの低迷など、トラック業界には次から次へと難題が降りかかっている。こうした状況にあって、国土交通省は燃料サーチャージ制の導入や、国費投入による大掛かりなトラック事業者支援などで存在感を示している。また、対荷主との不適正な取引関係の是正や業界内での健全な競争環境の整備についても、矢継ぎ早の対策を打ち出している。さらに、ここにきて顕在化してきたトラック輸送産業が抱える構造問題の解決に向け、産業としての将来ビジョンの策定に着手した。自動車交通局の本田勝局長にトラック行政の諸課題を聞いてみた。

◆中小トラック構造改善支援事業

――まず、一連の補正予算で制度化された「中小トラック構造改善支援事業」の実施状況について教えてください。

本田 中小トラック構造改善支援事業は、昨年10月に成立した第一次補正予算で、当時軽油価格が高騰していた状況に対応し、トラックとりわけ中小零細事業者への対策が必要だろうということで始まりました。順を追って説明しますと、まず平成20年度の第一次補正予算で総額35億円の国費を用意して、保有車両20両以下の中小零細事業者を対象に募集を行いました。省エネ効果のある事業への取り組みを応援していこうということで、1社あたり100万円を上限に補助したわけですが、募集の結果、約3500社に対して補助金を交付しました。すべての事業者に上限の100万円を補助したわけではないため、最終的な執行額は29億円となりました。

この事業が好評だったことから、続く第二次補正でも総額150億円を用意して、対象事業者を保有車両20両以下から30両以下に拡大しました。3月31日から受付を開始して6月1日に募集を締め切りましたが、約6000件の申請がありました。

また、今年度に入ってから、30両以下だけでなくすべての中小トラック事業者を対象にして欲しいという業界からの要望もあり、二次補正の150億円を原資として、補助対象を中小企業(資本金3億円以下または従業員300人以下)まで広げて、6月2日から7月10日まで申請を受け付けています。いわば3段ロケット方式で中小零細トラック事業者への支援を行ってきたわけです。30両以下を対象とした募集で約6000件という非常に多くの応募があったため、1社あたり100万円で計算するとすでに60億円の枠が埋まってしまい、残りは90億円しかないわけですが、せっかくの機会ですから、事業者の皆さんにはぜひ申請していただきたいと思っています。

◆社会保険未加入事業者対策、5両割れ事業者対策

――昨年の「トラック運送業に対する緊急措置」にも盛り込まれた正直者が損をしない°ニ界づくり、具体的には社会保険未加入事業者や5両割れ事業者への対策について、取り組みの現状を教えてください。

本田 トラック運送業の場合、構造的・特徴的な問題が大きく二つあります。ひとつは荷主、元請け、下請け、孫請けという段階的・多層的な取引関係があるなかで、荷主や元請けの言う通りにしなければならず、対等な取引関係になっていないことです。こうした不適正な取引の是正に向けて、適正取引を進めるためのガイドラインを策定したほか、ガイドラインを遵守していただく環境づくりを目的としてパートナーシップ会議を開催しています。二点目は、下請けである零細事業者を中心に過当競争が進んでおり、最終的には価格競争で勝ち抜いていかなければならないという状況があることです。そのことが、社会保険の未加入や保有台数基準である5両割れ、あるいは運行管理者を置かないことでコストを削減するという形であらわれてきています。そうした状況は、法令を遵守している事業者から見ると「正直者がバカを見る」という状況になりかねず、まさに不健全な競争だといえます。その是正に向け、違法や不適切な事業者に対する事後チェック体制の強化や監査・処分を強化する方針を昨年春に打ち出し、現在、これを順次行っているところです。

このうち社会保険未加入事業者への対策については、昨年7月から運用を開始しました。まずは各地の適正化機関に巡回指導していただき、そこで問題が見つかった場合、運輸支局に通報していただくという体制で動いています。巡回指導で問題を発見し運輸支局に通報があるまでに3ヵ月程度かかるため、実際に運輸支局が動き始めたのが昨年10月からです。そこから現地の支局が問題の見つかった事業者への監査を行い、社会保険事務所に通報してその回答をもらうという手続きを経るため、行政処分の作業を開始したのは今年に入ってからです。つまり実質的にはスタートからまだ半年しか経っていないため、数字の議論をしてもあまり意味はありませんが、それでも、車両停止などの正式な処分が4社、処分には至らない警告が40社にのぼっています。仕掛かり中のものもありますので、これから処分件数は増えてくると思います。いずれにせよ、社会保険に加入することは事業者としての当然の義務ですから、そこは守ってもらいたい。そうでないと、将来に向けたトラックの産業のあり方としても大きな問題となってきます。本音を言うと、6万3000社に及ぶトラック事業者を細かくチェックしていくことはマンパワーの面できついのですが、積極的に対応していきたいと思っています。

一方、5両割れ事業者の対策ですが、参入を新規許可する際に最低保有台数基準として5両を義務付けてきたにもかかわらず、現実として5両未満の事業者がいるのが実態です。これもマンパワーの制約がある中ではありますが、現在、集中的に監査を行っています。5両割れの事業者の中には、運行管理者を置かずに事業を行っているところも少なくないため、安全運行を確保していく面からもしっかりした監査体制で臨みたいと考えています。監査の結果、問題が見つかれば、当然しかるべき行政処分を行っていきます。

こうした取り組みは、ちゃんとした経営を行っている事業者から見れば、歩みが遅く見えるかも知れませんが、運輸局の体制をフル活用してやっていますで、ぜひともご理解をいただきたいと思います。

◆事業用自動車総合安全プラン2009

――今年3月に「事業用自動車総合安全プラン2009」が取りまとめられましたが、その推進に向けた現在の取り組み状況について教えてください。

本田 トラック業界では、以前から全日本トラック協会を中心に安全対策に取り組まれてきていることは理解しています。しかし、結果として死者数、事故件数とも減少傾向にあるとはいえ、マイカーを中心とした一般自動車の事故率と比べると見劣りするのが現実です。トラック事業者は営業ナンバーを掲げているプロであり、マイカーと比較して見劣りするのはいかがなものかというのが偽らざる思いです。このことはバスや、とりわけタクシーなど他の事業用自動車の分野でも同様であり、事業用自動車の安全対策について本格的に取り組む必要があると思ったわけです。ありていに言って、自動車交通局の仕事の半分は安全対策です。しかし、旧運輸省以来ずっと安全、安全といっておきながらこの結果ですから、この点については正直に反省しなければいけないと思っています。原因はいろいろあるでしょうが、これまでの対策を見直しつつ、現行で考えられるあらゆる対策を打ってみようというのが今回の「事業用自動車総合安全プラン2009」です。

このプランを進めていくにあたって注意すべきことが二点あります。一点目は、このプランに盛り込まれた対策を現場のドライバーに深く浸透させないと意味がないということです。現段階では単に作文をつくっただけであり、それで事故がなくなるわけではありません。もう一点は半年かけてまとめた内容が果たして正しいのかを常に検証しながら進めていく必要があるということです。現場からの意見を吸収して必要があれば見直したり、対策を追加・補充していくことが大事です。具体的には、トラック協会を通じて個々の事業者への浸透を図っていく一方、国交省としても各運輸局が中心となって対策を事業者の個々の現場に届くように努力していく必要があります。

現行の取り組み状況について言えば、各地方ブロックごとに「○○地域事業用自動車安全対策会議」を設置して、6月26日の中部ブロックを皮切りに7月上旬にかけて運輸局単位でのフォローアップを開始しています。本省でも「事業用自動車総合安全プラン2009フォローアップ会議」を設置して、当面年2回のペースで施策の進捗状況の確認や事故削減目標の達成状況の確認、施策の追加などを行っていく予定で、第1回の会議を今年秋頃にも開くことが決まっています。また、関係業界団体でもそれぞれ取り組みを進めますが、このうち全ト協では6月8日に開催された交通対策委員会で「トラック事業における総合安全プラン2009」(案)が提示され、平成30年における死者数・人身事故件数を約半減することや飲酒運転ゼロなどの目標案が示されました。今後、同委員会内の安全対策検討WGで議論の肉付けを行い、9月末の委員会でプランを正式決定し、10月1日に公表する予定となっています。このほか、NASVA(独立行政法人自動車事故対策機構)も5月末に「NASVA事業用自動車安全プラン2009」を決定しています。

安全対策も燃料サーチャージと同じで、掛け声だけでは意味がありません。まさに現場で動けるような運動≠ニして取り組んでいく必要があります。

◆産業としてのトラック運送事業のビジョン

――トラック運送事業の「産業としての将来ビジョン」策定に向けた検討作業が動き出しています。その狙い、今後の作業の進め方について教えてください。

本田 ご存知のように、トラック運送業は6万3000社に及ぶ中小零細事業者がひしめいている産業です。他方、国内物資にとどまらず、海外から入ってくる物資や海外に出ていく物資の国内輸送も担っており、まさに日本を取り巻く物流の根幹を支える基幹的な産業だといえます。しかし、将来にわたって健全で持続可能な産業として発展していけるかということに関しては、いくつかの大きな課題があります。

そのひとつが、従前から話に出ている荷主〜元請け〜下請け間での不適正な取引形態です。また、それ以上に深刻なのが、下請け事業者を中心に過当競争が進み、不健全な競争が行われているという実態です。ともすれば不毛な価格競争に陥っている状況があり、産業としてトラック輸送が将来にわたって存続できるようなしっかりとした基盤がつくられているかについては、大いに議論の余地が残るところです。昨年前半の燃料価格の高騰や昨年秋の経済危機に端を発した荷動きの低迷の中で、こうした構造的な問題が顕在化してきました。産業としてのトラックは重要であり、将来にわたって発展していくべきだ、ということは論を待ちません。では、何が課題なのか、具体的に何をすべきなのか、こうしたテーマについて落ち着いて議論すべき時期にきているように思います。

しかし、単なる思いつきや当座の対症療法では意味がありません。6万3000社に及ぶ巨大な産業であり、そこには当然、色々なご意見もあります。そこで第一段階として、貨物課と全ト協で議論の前提となる客観的なデータの収集に取りかかっています。場合によっては事業者にアンケート調査も行い、実際に事業を営んでいる方の声を受け取った上で議論を進めていく必要があると思っています。こうした準備を行った上で、秋口にも関係者を加えた勉強会を立ち上げ、論点を整理していきたいと考えています。その後、来年度に調査費を予算化して、来年度中にも将来ビジョンをまとめたいと思っています。

あらかじめ特定の結論を用意しているということはありません。歩みが遅いとのご意見もあるでしょうが、産業としてのあり方を議論する場合、客観的な情報を抜きにしてもあまり意味がありません。また、トラックのような非常に大きな産業の将来像を考える際には、その背景となる日本経済や日本社会のあり方も見通さざるを得ません。今回の経済危機を乗り切ったあとの日本経済はどうなるのか、また今後、日本は国際社会でどういう位置づけになるかといったことも念頭に置いて議論する必要があるわけです。ここはしっかり、じっくりと議論させていただきたいと思っています。

繰り返しになりますが、昨年の前半は油の問題で大騒ぎとなり、その過程でトラックの産業としての脆弱な部分が浮き彫りになりました。具体的にはコストを運賃に転嫁できないということです。また、その背景にある業界の構造もわかってきました。 さらに、昨年秋以降は荷動きが極端に悪くなり、その中で6万3000社がどうやって生き残っていくかという問題にも直面しています。メーカーなどの荷主も物流のあり方を変えてきており、総体としての物流量は確実に減っていきます。将来に向けた産業としてのビジョンを考えなければならない時期に来ていることを、実感として感じています。

カーゴニュース6月30日号

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