<この国はどこへ行こうとしているのか>
「日本はどうすればいいか、といつも聞かれるけど、僕はそんなことを考えていない。矛盾するけれど、日本のことを考えないこと、日本から離れて考えることが、日本のことを考えることになる、と思う」
柄谷行人さん(67)は一つ一つの言葉を丁寧に選びながら、静かにそろりと話を始めた。ニュータウンにある柄谷さんの自宅。外はやわらかな日が差し、心地よい風が吹いていた。
世界を覆う金融危機は「100年に1度」の大合唱。今回の金融危機を1929年との類似性からみる解釈が社会を覆う中、柄谷さんはそれは間違いで、危険だと指摘した。
「経済危機という意味で似ているのは当然ですが、世界状況がまるで違います。たとえば、1929年の恐慌以後、米国は覇権国家の地位をますます固めていきました。しかし、今回の恐慌が示したのは、米国が衰退したこと、今後はもっと衰退するだろうということです。さらに、1929年の時点ではソ連があった。また、中国やインドは植民地状態にあった。今とはまるで違います。現在に似ているのは、120年前、つまり、1890年ぐらいですね。そのころは、英国の衰退によって生じた帝国主義の時代です」
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毎日新聞 2009年6月30日 東京夕刊