大阪府富田林市の石川河川敷で私立高校1年、大久保光貴さん(15)が殺害された事件で、遺体の外傷のほとんどが頭部に集中していたことが府警富田林署捜査本部の調べで分かった。殺人と死体遺棄容疑で逮捕された府立高3年の少年(18)=富田林市=は「後頭部や顔をバットなどで何度も殴った。頭を狙ったのは急所だから」と供述したといい、府警は少年が強い殺意を固めるまでの経緯を調べている。
府警によると、遺体は後頭部から頭頂部にかけての外傷がひどく、木製バットや木づちで殴られた際の陥没骨折が致命傷になったとみられる。顔などに残っていた擦り傷は、大久保さんが河川敷に残された血だまり付近で頭を殴られた後、自力ではうなどしたか、引きずられた際についたとみられる。
府警は、あらかじめ河川敷に凶器の木製バットを隠すなど、少年が強い殺意のもとで計画的に殺害に及んだとみて心理状態の解明を急いでいる。
これまでの調べで、少年は大久保さんの交際相手の女子生徒に好意を寄せ、トラブルになっていたことが分かっている。少年は11日午後8時~12日未明に大久保さんを殺害し、遺体を川に遺棄した疑い。12日は普段通り登校し、同日夕、校内から警察に同行された。【花牟礼紀仁、堀江拓哉】
殺害現場となった河川敷は少年の自宅にほど近い場所だった。
少年は両親と姉妹の5人暮らし。近所の人によると、両親は共働きで会社員の父親の赴任先の中国に、一家で住んでいたこともあった。一戸建ての家からは笑い声やピアノの音色が聞こえ、「円満な普通の家族」という印象だという。
別の女性は「(少年は)愛想のいい子。事件が信じられない」と戸惑っていた。
少年が逮捕された13日、自宅は静まり返っていた。外出先から帰った父親は「今は何も話せない」とだけ語り、足早に自宅に入った。夕方、少年の友人(17)が自宅前に来て涙を流し始めた。「逮捕が信じられなくて確認に来た。あんな事、絶対にするやつやない。悩みがあったなら、話してほしかった」
少年が通う高校の同級生によると、事件後の12日の昼休み、大久保さんの交際相手の女子生徒が大久保さんの死亡を知り、廊下でうずくまって号泣した。そばにいた少年はなぐさめるように、女子生徒の頭を何度もなでていたという。また、少年はその前の美術の授業で、課せられた版画絵の制作に手もつけず、友人と雑談ばかりしていたという。
中学時代の同級生の友人(17)は「普段は笑顔だが、怒ると止まらないところがあった」と話した。
一方、大久保さんの通夜が13日夜、大阪府河内長野市の斎場でしめやかに営まれた。参列者によると、家族や友人らは号泣し、死を悼んでいた。
おとなしいと思われている少年が犯罪に走る「いきなり型」の典型だろう。周囲からは普通に見えても環境に何らかの不適応を起こしている可能性があり、家族関係や成育歴も調べるべきだ。
「彼女を助けるために排除する」という供述が本当の動機だったのか疑問も残る。今後、本心を語らせる捜査が欠かせないし、精神鑑定も含め、少年の背景に何があったのか解明する必要がある。
毎日新聞 2009年6月14日 大阪朝刊