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しびれる映像の密度 「ヱヴァンゲリヲン新劇場版 破」

2009年7月5日

 90年代後半に一世を風靡(ふうび)したSFアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の新たな劇場版第2作。戦闘描写は日本アニメの最高水準だ。発端から語り直される物語は、07年公開の「序」に続く本作「破」で急展開、新たな結末に向け大きく動き出した。

 襲来する「使徒」、迎え撃つ組織NERV(ネルフ)とロボット(のような)兵器エヴァ、操縦を命じられる主人公シンジ。それぞれ秘めた謎があり、使徒との闘いも予言書めいたシナリオに沿ったものらしい――といった基本線は最初のテレビ版から変わらない。

 新劇場版では映像が密度とパワーを増した。高圧電線を「ハードル跳び」するエヴァの躍動感、メカや建物のCGのリアル感、砲弾の光跡や爆発の迫力にしびれる。古今東西のアニメや特撮の描写から「カッコよさ」を抽出してくる天才、庵野秀明総監督の面目躍如だろう。

 萌(も)え風味の学園コメディーからサブキャラクターの悲惨極まる末路まで、振れ幅の大きなドラマを展開しつつ、謎を小出しにするお得意の作劇も好調。テレビ版との差異をちりばめ、ファンを一層謎解きに駆り立てる仕掛けだ。

 新劇場版の急展開の中心は主人公とヒロインだ。閉塞(へいそく)感と疎外感の濃かった2人が終盤、互いをかけがえのない存在と認める。97年の劇場版で悪夢と虚無に終わった「エヴァ」が、こんなまっすぐなラブストーリーになるとは!

 庵野総監督は、憂鬱(ゆううつ)な自画像として作ったシンジと「エヴァ」を、今度はいとしい我が子のように、世界に力強く送り出しているかに見える。

 新劇場版の地球は赤い。災厄で海が赤く染まったからだ。真っ赤な地球は元の青さを取り戻せるのか。次の完結編が楽しみだ。(小原篤)

     ◇

 東京・新宿バルト9などで公開中。

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