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大阪府:退職金削減案 「聖域」に踏み込む

橋下知事の意思固く

 大阪府が発表した府職員の人件費削減案は、都道府県として初めて退職手当のカットに踏み込んだ。財政再建に向け人件費を削る自治体は多いが、基本給や期末・勤勉手当(ボーナス)が対象で、退職金は「聖域」だった。改革のアピール効果を狙う「橋下流」の人件費削減案は、全国にも波紋を広げそうだ。【長谷川豊】

 今回の人件費削減案の策定作業のなかで、担当の人事室が最も苦慮したのが、都道府県初となる退職手当の削減だった。「これから定年の職員には、不公平感がぬぐえない」との反論だけでなく、「一方的な勤務条件の変更は不当として、訴訟を起こされるのでは」の声まで上がった。「給料の減額幅を広げてでも、退職手当削減は回避したかった」。ある府幹部は語る。しかし、決断を迫られた。「退職手当に手をつけるという知事の意思は固かった」

 従来の府の退職手当は平均約2738万円(60歳定年、06年度)、総額約1100億円(07年度予算)。今回の削減案では、非管理職122万円、管理職の課長・次長級161万円、部長級198万円のカットとなる。

 今年度末に定年退職を迎える男性職員(59)は「退職金を当て込んで中古マンションを2000万円で買った。大学受験前の娘もいて余裕はない。将来設計が狂う」と嘆いた。

 ◇労組反対、北海道は断念
 退職手当削減は、北海道が5%カット案を労組に提示し、猛反対で断念した例がある。


 06年度に従来の都道府県で過去最高の基本給一律10%カットに踏み切った北海道は、退職手当も合わせて「2年間」と期限を区切って提案。だが、期間中の退職者に限られて不公平と実施できなかった。全北海道庁労働組合の木村美智留書記長は「北海道で大幅カットの流れができた。大阪府で実現すると他に波及する」と話した。

 07年に財政再建団体となった北海道夕張市は、支給月数の上限を、10年度に最大4分の1まで下げる。

 ◇根強い高額批判 人事院「民間とほぼ同水準」
 公務員の退職手当については、一般に「高すぎるのではないか」との指摘は根強い。こうした疑問に答えるため、人事院は06年11月、国家公務員と民間企業の社員の退職後の給付を比較したデータを公表した。

 退職後の給付は、公務員、民間ともに退職金と年金がある。公的年金は、基礎年金に加えて公務員は共済年金、民間は厚生年金が上乗せされる。共済年金と厚生年金はほぼ同額となる。

 公務員と民間の違いは、共済年金には厚生年金にはない「職域部分」と呼ばれる加算があり、民間には別に退職金の後払い的性格のある企業年金があることだ。

 このため人事院は、公務員の退職手当と職域部分の合計と、民間の退職一時金と企業年金の合計を比較した。その結果、国家公務員は2959万円で民間より20万円低かった。

 ◇調査偏り指摘も
 ただ、この調査には「不備」も指摘される。対象は従業員50人以上の企業で、回答率は61・8%(3850社)だった。また勤続20年以上の社員に限定したため、データは長期勤続者の多い大企業の水準に偏る傾向があった。

 さらに中小企業には企業年金がない場合も多く、この調査結果が「民間の平均」を反映しているとは言えない。

 給与コンサルタントで退職金に詳しい北見昌朗さんは人事院の調査について、「中小企業の実態が含まれず、公務員の退職金を低く見せるための作為的な数字だ」と指摘。生涯収入を客観的に比較するデータがない点を問題視し、「大阪府の案を契機に新たな議論が必要だ」と唱える。

毎日新聞 2008年5月23日 大阪朝刊