治安情勢の指標とされる犯罪の大半が減少する中、ひったくりと強盗が増えている。02、03年をピークに減り続けていたが、昨秋のリーマン・ショック以降増加に転じ、今年1~5月の認知件数は08年同期と比べいずれも14%増となった。人口10万人あたりの認知件数を示す犯罪率を完全失業率の推移と重ねてみると、同じような曲線を描いている。金に困った末の犯行が増えているとみられ、雇用情勢との相関関係が色濃く浮かんだ。【千代崎聖史】
警察庁によると、ひったくりの認知件数は89年に1万件を突破。ピークの02年には5万2919件に達したが、取り締まりの強化などで減少に転じ、08年は1万9145件で95年とほぼ同じレベル。犯罪率(件/10万人)も02年に41.5まで悪化した後は減少、08年は15.0だった。
ところが、今年2月ごろから一転して増え始め、1~5月の認知件数は08年同期比14.2%増の8631件。増加は関東圏に集中している。
また強盗は03年の7664件をピークに減少し、08年は4278件。犯罪率も03年の6.0から08年は3.4まで下がっていたが、08年11月ごろから増え始めた。今年1~5月の認知件数は1952件で、08年同期比14.0%増。治安の目安とされる重要犯罪・重要窃盗犯の10罪種中、08年同期比で増えたのはひったくりと強盗だけ。手っ取り早く金を手に入れたい犯罪者心理が反映しているとみられる。
一方、完全失業率(年平均)は86、87年には2.8%に達した。バブル経済期に一時改善され90、91年には2.1%まで回復したが、バブル崩壊後に再び悪化し、02年には過去最悪の5.4%に達した。その後は下がり続けていたが、リーマン・ショックが世界的大不況に発展した08年は07年比0.1ポイント増の4.0%に。今年1~5月の月別完全失業率は08年を大きく上回っており、犯罪率との相関関係が認められる。
重要犯罪は▽殺人▽強盗▽放火▽強姦(ごうかん)▽略取誘拐・人身売買▽強制わいせつ。重要窃盗犯は▽侵入盗▽自動車盗▽ひったくり▽すり。警察当局が治安情勢を観察する際の指標。
毎日新聞 2009年7月4日 15時00分(最終更新 7月4日 18時49分)