少年事件で少年の権利保護や更生の支援をする付添人。関係者からは「精神的補助という役割もあり、大人以上に必要性が高い」と指摘される。一方、国選付添人の対象事件は殺人、傷害致死、強盗などの重大事件に限られ、少年事件の多数を占める窃盗や傷害は対象となっていない。付添人の選任割合も低い。付添人の役割と課題を探った。【遠山和宏】
県弁護士会子どもの人権委員会委員の井上陽介弁護士は、傷害事件で逮捕された少年の付添人となった。事件発生から約50日、逮捕から10日ほどたっていた。「子どもはそれほど悪くない」と考える少年の母親と、事件で精神的にショックを受けた被害者との溝は大きく示談交渉は進んでいなかった。井上弁護士は母親に被害者の状況を丁寧に説明し「一度親に立て替えてもらった上で少年が働いて返していく」方法を提案、示談は成立した。
少年は当初母親に「ほっといてほしい」という態度を取りがちで交友関係も話したがらなかった。井上弁護士は少年と4回面会する中で「母親は少年のことを一生懸命考えている」ことを伝えると、少年は「悩みがあれば親にも伝えていきたい」などと態度に変化がみえてきたという。素行の悪い友人との付き合いもやめることにした。家裁の処分は保護観察だった。
井上弁護士は「成人事件以上に大変なこともあるが、かかわっていくことで大きく変化していくこともあり、やりがいがある」と話す。
付添人の活動は、少年との面会▽保護者との面談▽記録の閲覧・検討▽調査官との面談▽被害者との示談交渉▽学校の教師との面談▽就労先の確保▽裁判官との面談▽裁判所への報告書及び意見書の提出--と多岐にわたる。当事者の家族だけでは解決困難な事案も多い。
熊本家裁によると、事件を受理して少年を少年鑑別所に送る観護措置が取られた事件数は06年216件▽07年197件▽08年237件。しかし、付添人が選任された事件数は06年68件▽07年94件▽08年87件と5割以下しかなく、付添人がいない状態で審判を受ける少年も多い。07年11月に国費で付添人を選べる付添人制度が始まったが、選任件数は07年1件▽08年9件にとどまっている。
弁護士以外でも裁判所が認めれば付添人となることが可能で、非行少年の更正支援をする「少年友の会」はボランティアで精力的に付添人活動をしている。会員の前村斉さんは「なかなか素直な気持ちを言えない少年も多いが、話を聞くことで誰かとの間の懸け橋になって力になりたい」と話す。一方「我々はあくまでボランティア。少年事件の件数は多くだんだん苦しくなってきている」とも語り、付添人弁護士の重要性を強調する。
県弁護士会は06年から観護措置が取られた少年が弁護士と面会を希望した場合、1回に限り無料で弁護士を派遣する「当番付添人制度」を設けている。経済的に苦しい少年には日本弁護士連合会の運営基金や県弁護士会からの援助で弁護士費用を賄うことができる。
ただ、国選付添人制度に比べると弁護士会が負担を肩代わりするという仕組みの分かりづらさが付添人の選任件数を減らしている可能性もある。また、逮捕された容疑者が国費で弁護士をつけられる被疑者国選弁護制度の対象範囲が、5月から窃盗や傷害にまで拡大された。このため「成人以上に少年は精神的な支援が必要で、少なくとも被疑者国選事件と同じ範囲で国選付添人が認められるべきだ」との声が関係者から上がっている。
毎日新聞 2009年7月3日 地方版