水俣病未認定患者を新たに救済する特別措置法案の修正に自民、公明両党と民主党が合意、衆院本会議で可決された。来週中にも参院で可決され成立する見通しとなった。
合意のポイントは、原因企業であるチッソの分社化を民主党が容認するかわりに、救済対象として民主党が主張する4症状を追加したことだ。
合意が成立した背景には、総選挙を間近に控え、決裂による救済策練り直しを懸念した与党と、修正に応じないことで解決を遅らせたとの批判を恐れた民主党の思惑が透けて見える。
1956年に水俣病が公式確認されて半世紀以上が過ぎ、被害者の高齢化が進んでいる。「生きているうちの救済」は被害者たちの悲願だ。95年に村山政権が打ち出した政治解決以来の救済拡大は前進である。
現在、熊本、鹿児島両県を中心に約3万人の未認定患者が救済を求め、環境省の想定ではうち2万人程度が一時金支給などの対象となるという。しかし、残る1万人は蚊帳の外に置かれたままだ。
チッソ分社化は補償専門会社(親会社)と事業会社(子会社)に分け、親会社が得る株式の配当や売却益を補償費用に充てるのが目的である。補償金の支払いが完了した後に子会社を存続させ、親会社は清算、解散する計画という。
チッソが一時金の支払いに同意するまでは分社化計画を環境相が認可しないなど条件を厳しくしているものの、地元からは「原因企業を消滅させる無責任な幕引きは許せない」との厳しい声が上がっている。分社化したとしても水俣病発生の責任が消滅しないことなどを明確にしておく必要があろう。
国が定めた水俣病の認定基準があまりに限定的で、緩やかな司法と「二重基準」となっている問題も残ったままだ。2004年の関西水俣病訴訟上告審判決で、最高裁は国より幅広い基準で救済を命じたが、その後も国は基準を見直さなかった。
今回の特措法案で患者の救済範囲は広がる。歓迎する声がある一方で、被害者団体の一部は受け入れを拒んでいる。最終解決までの道のりは遠い。今後、実務レベルでは与党と民主党で開きがある一時金の金額設定などの協議が残る。
差別を恐れて声を上げない潜在患者などは多いとの指摘もある。被害の全容を明らかにする作業があって救済策があるべきだろう。被害者を置き去りにした解決はあり得ない。
「核の番人」ともいわれる国際原子力機関(IAEA)トップの次期事務局長に、日本の天野之弥ウィーン国際機関代表部大使が選ばれた。
ノーベル平和賞受賞で知られるエルバラダイ事務局長の後任を決める特別理事会の選挙で、天野氏がアジアから初めて選出された。12月に就任する。
IAEAは技術協力支援などで原子力の平和利用を促進すると同時に、軍事利用を防止する核不拡散や核軍縮の取り組みも担う。その運営を取り仕切る事務局長に、唯一の被爆国である日本が擁立した天野氏が就く意義は大きい。
天野氏は「原子力の平和利用を実現する日本の姿を世界に示したい」と抱負を語った。ぜひ、そうしてもらいたい。地球温暖化などを背景に原子力発電への関心は高まっている。途上国の間では先進国の技術協力を望む声は多く、IAEAの支援に期待を寄せる。
原子力には軍事転用の懸念もある。特に2度の核実験を行った北朝鮮やイランの核問題への対応は急務である。天野氏も厳しいかじ取りを迫られよう。
天野氏はスムーズに次期事務局長に選ばれたわけではない。名乗りを上げた3月の前回選挙では決着がつかず、今回の選挙でかろうじて選出された。
麻生太郎首相らが天野氏への支持を関係国に呼び掛けるなど、日本は総力を挙げて食い込みを図ったとされる。天野氏が存在感を発揮するには、サポート強化が欠かせまい。
米国のオバマ政権誕生で核軍縮に期待が強まる中、核廃絶を訴える日本の役割は拡大している。米国の「核の傘」に頼ったままでは、天野氏の指導力にも限界があるだろう。政府・与党内でも根強い核武装論などもってのほかである。
(2009年7月4日掲載)