「税金は値切れる」 国家というシステムのバグを突くには? 【書評】貧乏はお金持ちby橘玲
ここ3年ほど、歯のインプラントの手術やらなんやらで、医療費が結構かかったこともあって、年度末に税務署で確定申告をしている。
30過ぎるまでは、ずっと確定申告をしたことがなかった。だから、初めて還付金が振り込まれたとき
「このオカネは、どこから沸いてきたのだろう?」
と不思議な気持ちになったものだ。本来的にいえば、自分が「払い過ぎた」税金を取り戻したのに過ぎないのだが・・・。
ついつい、サラリーマンをやっていると、納税者意識が薄くなるのだが、「税金とは交渉次第で値切れるものなのだ」という、ある意味、信じられない現実を突きつけられる本の一節があったので、紹介したい。
この本の著者の橘玲さんは、国家や制度のもたらすシステムの「バグ」を突いてHackするような視点を、鮮やかに描き出すことにコダワリ続けている、私の大好きな書き手だ。ストーリーテリングの美味さもあって、私は、橘玲さんの本は、ほとんど全部読んでいる。
貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する
著者:橘 玲
販売元:講談社
発売日:2009-06-04
おすすめ度:
クチコミを見る
内容紹介
会社に左右されず独立した人生を歩むには? サラリーマンは国からも企業からも搾取され、使い捨てられる運命しかない。経済的独立を果たすために「一人法人」化し、全てのメリットを享受せよと説く画期的書
「正社員になることが幸福だ」という昨今の風潮に違和感があって、もうひとつの (オルタナティブな)生き方を実践的な知識とともに提案してみたい、というのが本書を書いたきっかけです。ファイナンス(会計や税務・資金調達)は企業のためだけのものではなく、個人の人生設計にも役に立ちます。グローバル化という現実をイデオロギーで否定してもなんの意味もありません。いま必要とされているのは、一人ひ とりがサバイバルするための知識と技術ではないでしょうか。
橘玲
内容(「BOOK」データベースより)
2009年、社畜たちの「自由への逃走」が始まる―。税金ゼロで利益を最大化!社会的弱者が合法的に国家から搾取する方法。
私が衝撃を受けたのはこのくだりだ。
節税と脱税のあいまいな境界それが、正しいことかどうかは別にして、「日本国民、みんなが公平にルールに従って税金を納めている」なんていうのは、幻想なのだ、ということがよく分かるだろう。
人気マンガ家 西原理恵子の事務所にある日、税務署がやってきた。そんな書き出しのマンガ「脱税できるかな」(できるかなV3 (SPA! comics)所収)は、税務調査の実態を白日のもとに晒した衝撃作だ。
-中略-
サイバラの経営する「有限会社とりあたま」は設立以来7年間ほとんど税金を払ってこなかった。領収書の金額にゼロをふたつ加え、存在しないアシスタントを常時30名以上使っていることにして経費を水増ししてきたからだ。
当然、税務調査では実体のない経費を否認され、延滞税のほかに重加算税も加えられ、過去5年間にさかのぼって、総計1億円の追徴課税を告げられる。それを聞いてサイバラは叫ぶ。
「誰が払うかそんな金」
マンガに描かれるサイバラの対抗策はどれも荒唐無稽なものだ。たとえばフリーカメラマンの夫に、ベトナム、タイ、インドなど数百万円の取材費を支払う(市販の領収書に金額を書いただけ)。
領収証に書かれたアシスタントが全員存在しないことを問い詰められると、じつは自分はマンガが描けず、ゴーストライターを使っているから実名は明かせないのだと抗弁する。
常識では認められるはずのないものばかりだが、こうした徹底抗戦を続けていると、なぜか税務署は追徴額を半分の5000万円に減額してくれる。
-中略-
ここから話はさらに不可思議な展開を辿る。
税務署が強制執行をちらつかせれば、サイバラは裁判で徹底的に争うと宣言する。このようにして、両者の主張は完全に対立し、膠着状態に陥るのだが、双方の緊張感が極限にまで高まったときに、税務署が突然、「ぶっちゃけた話、いくらなら払うおつもりですか?」と言い出したのだ。
それに対して、サイバラは、10分の1の1000万円を提示する。すると驚いたことに、あれほどまでに強気だった税務署側は、1500万円の追徴課税で妥協してしまったのである。
-中略-
1年間の"交渉"の結果、確たる理由があるわけでもないのに、税金が八割も棒引きされてしまったのだ。
だが、話はそれだけでは終わらない。
-中略-
そればかりか、税理士は、翌年以降の税務署とのトラブルを避けるために「(会社を)つぶしちゃいましょう」とまでアドバイスする。転居して所轄が異なれば情報は共有されず、「前科のないまっさらな会社」でスタートできるのだ。
そもそも医療費控除ひとつにしたって、「面倒臭いから」とか「申告の仕方がよくワカランし・・・」、と控除をしなかった人に対して「あなた、税金を収めすぎですよ!」と税務署が、気を利かして税金を再計算して、勝手に自分の口座に振り込んでくれるわけではない。
超基本的なことだが、「税務署(日本国)vsアナタ」という「ゲームのルール」に基づいて「プレイするか、どうか」という気構えの問題がそこに横たわっているのだ。
あなたは、日本国という存在を、自分がプレイしている人生という「ゲーム」の対面に位置するプレイヤーとして、意識したことがあるだろうか?
結局、国なんていうのも、人間が作ったシステムの一種類に過ぎないので、ハッキリ言って「穴だらけ」「バグだらけ」である。自分にとって都合の悪い決定を押し付けられそうなら、戦えばよいし、利用できる部分では最大限に利用したらよい。物理的な存在としての日本列島のように、所与の「環境」として、国家を捉えるのは、止めたほうがよいということが、本書を読めばよく分かる・・。
例えば、ほとんどの人が「最高裁で有罪が確定しました」と言えば、「きっと、アイツが真犯人だったのね・・・」と思うだろうが、最近の足利事件で、DNA再鑑定の結果、冤罪だったことが判明したことを見ても分かるように、そんなのは、ナイーブな思い込みだ。
裁判所の判決だから、普遍的な真理が含まれているのだろう、ということなど、微塵もなく、あくまで日本国という想像上のシステムが「便宜上、そういう判断をした」ということに過ぎないのであって、実態としては、生身の裁判官なりが、ただ役所シゴトの一つとして判断したことに過ぎないのである。
そういうグダグダな組織である国家という組織・システムに対抗するために、橘玲が説くのは、「株主=自分1人かつ社員=自分1人」という極小の法人、橘がいうところの「マイクロ法人」を設立して、「合法的に国家から搾取する方法」を実行することである。
国家は、法律や行政上の前例に基づいて運営されている、ある種のシステムだ。
だから、国家と対抗し、国家を利用するためには、あなたも、法律を最大限に利用し、生身の個人としてでなく、バーチャルな「システム」として、国家と対峙することが肝要だ。
そのための「乗り物」として、マイクロ法人という仕組みが登場してくる。マイクロ法人は株主も社員のアナタ一人なのだから、あくまで「法律上、書類上のみに存在する」想像上の産物に過ぎないとも言えなくもない。
しかしながら、マイクロ法人を設立すると、不思議なことが次々と起こる。
例えば、一個人のままだったアナタが、金融機関の窓口に行き、「無担保でオカネを貸してください」と言っても、断られるか、かなり高利の金利を要求されるに違いない・・・。
しかし、マイクロ法人を設立したうえで、善良な中小企業の「代表取締役」としてのアナタが、金融機関に融資を依頼すれば、全く違ったトビラが開くのだ・・。
下記のリンクを見て欲しい・・。
新規創業の為の融資制度一覧
上記のリンク先を見れば分かるように、信用保証協会を通じた、区役所の創業支援制度に基づいた融資なら、公的な資金に基づいて、利子が補給され、本人の実質的な負担は、1000万円を無担保で借りても、年利0.3%(世田谷区の場合)で年間3万円の利息に留まったりもするのだ。
これは、本書によれば、ビジネスプランが審査されたりするわけでなく、要件を満たしさえしていれば、申請すれば実質的には殆ど通るそうである。
年利0.3%ということであれば、この融資制度で調達したお金で、そのまま銀行の定期預金にしたり、国債を買ったりしても、充分に利ザヤが抜けてしまう、有り得ないほどの低金利である・・・。
この低金利は、実質的には誰が負担しているのか?
もちろん、納税者である我々である。役所の商工課の人たちは、議会が決めた予算に従って、事務を執行しているだけだ。
こういう自治体による低利での融資制度があることを知らずに、いわゆる商工ローン等から高利で資金を調達した結果、首が回らなくなって自殺した、中小企業のオーナーも、これまでに無数にいたかもしれない・・。
「そんな、彼らの死を、もたらしたのは何だろうか?」
私が手短に断じれば、「無知」ではないだろうか。
中小企業の悲哀を嘆くようなお涙頂戴のストーリーに背を向け、橘氏の本は、一貫して、国家という制度・システムのバグを突くことで、より自由に生きよう!と背筋がヒンヤリするようなリアリティを持ちながら、ポジティブに訴えてきたのだと思う。
「無知」から脱却し、国家というシステムのバグを突くことで、より自由に生きよう!
PS:
例えば、ソニーやマツダ、三菱商事や三井物産など日本を代表する大企業ですら、納得できない税金の徴収には、不服を申し立てて、国と争っている。(この移転価格税制というのは、国境を越える大企業と、国家とのせめぎ合いの最前線でもある・・。)
現行のシステムで払う必要がないとされている税金を、払う義務はないし、不服があれば申し立てればよいのだ。
「申告漏れ=脱税=悪人」というイメージで、野村サチヨみたいな有名人を捕まえ、一罰百戒をブチかますことで、納税規律を何とか保っている、現行の所得税・法人税中心の徴税制度は、持続可能か、きっと疑わしくなっていくだろう。
【私が好きな橘玲氏の著作一覧】
貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する
著者:橘 玲
販売元:講談社
発売日:2009-06-04
おすすめ度:
クチコミを見る
↓もはやクラシックス
「黄金の羽根」を手に入れる自由と奴隷の人生設計 (講談社プラスアルファ文庫)
著者:橘 玲
販売元:講談社
発売日:2004-08
おすすめ度:
クチコミを見る
海外投資と節税に関して・・武富士の御曹司の節税?を巡るくだりが白眉
黄金の扉を開ける賢者の海外投資術
著者:橘 玲
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2008-03-07
おすすめ度:
クチコミを見る
田端 信太郎 / 株式会社ライブドア メディア事業部長 http://blog.livedoor.jp/tabbata/ |
Trackback: http://www.future-planning.net/x/modules/news/tb.php?3984
■あなたもFPNニュースコミュニティに記事を投稿してみませんか?
→記事の投稿方法についての詳細はこちら
スレッド |
---|