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ユニクロはなぜ2ケタ増収を達成できたのか

プレジデント7月 4日(土) 14時21分配信 / 経済 - 経済総合
5 forcesを用いた業界分析
■マイケル・E・ポーター【5 Forces】

 ポーター理論の根底には「業界ありき」という考え方がある。まず業界に魅力があるか否かが大事であり、ポーターの提案した「5 forces」はそれを測るためのツールなのだ。
 業界の魅力を重視する理由は、それによって企業が取るべき戦略が変わるからである。
 魅力的な業界では、他社との違いを際立たせる必要はそれほどない。すでに業界として儲かる仕組みができているからだ。また、その業界のリーダー企業は、業界の魅力を損なわないよう振る舞わないといけない。わざわざ血みどろの戦いに持ち込んで業界の魅力度を下げることは避けるべきである。
 一方、魅力のない業界では品質やコスト面(オペレーション効率)だけではなく、独自の戦略とイノベーションによる競争(戦略的ポジショニング)が一層重要になる。

 いずれの業界でも重視されるポイントは、(1)他社とは異なる独自の価値提供をすること、(2)戦略に一貫性があること、(3)戦略を支えるイノベーションが存在すること、(4)独自のバリューチェーン(価値連鎖)を形成すること、(5)何をしないか(トレードオフ)を選択すること、(6)さまざまな活動間におけるフィット(調和)を確立すること、である。
 そして戦略の優劣は収益性と相関関係がある。業界に魅力があってもなくても、その企業の戦略が優れていれば、結果として業界平均を上回るROIC(投下資本利益率)を達成できることになる。

 不調続きのアパレル業界の中で、業績好調なファーストリテイリングのユニクロ事業を例に取って説明しよう。
 5 forcesは(1)参入障壁の高さ、(2)競争業者間の敵対関係、(3)代替品の脅威、(4)買い手の交渉力、(5)供給業者の交渉力の五つの観点から業界分析を行う。
 これを用いてアパレル業界の魅力度を検討すると、参入障壁は低く、価格競争で血みどろの争いが続いており、代替品の脅威は大きく、買い手である消費者に対して強気の価格設定を行える状況になく、供給業者に対してもそれほど強い交渉力を持っていない。
 結論として、現在のアパレル業界の魅力度は低いと言えよう。

 そんな業界構造の中で、ユニクロは「オペレーション効率」を実現している。製造面では早くから中国に進出して高い品質管理を実現し、販売面では単品管理の導入で在庫管理の効率性も高めた。
 一方、魅力のない業界においては重要な「戦略的ポジショニング」の確立には、(1)ユニークなことをやる、(2)やらないことを選択するという二つの取り組みを実施している。
 ユニクロのユニークさは、ベーシックで品質が良く、消費者が信頼できる服を気軽に手に取れる値段で提供したことにあり、その背後にはSPA(製造型小売業)の仕組みがある。
 SPAは他の企業も取り組んでいるが、ユニクロと他社との違いは常にイノベーションを起こしているか否かにある。ヒートテックを例にとれば、昨年に比べ品質の向上が著しく、ニューヨーク店を見ても、商品のカラーバリエーションは今や他社を上回る勢いである。
 他方でユニクロは徐々にジャケット等に守備範囲を広げているが、「ベーシックなアパレル」の枠からは外に出ない。

 ところが多くの企業はユニクロのように適切な戦略を採ることができていない。むしろ成長のためにあれこれ手を出してユニークさを失い、結局うまくいかないという「成長の罠」に陥る事態もよく見られる。
 ファミリーエンターテインメントに特化していた米ディズニーが、成長のために本業と関係ないM&Aを1990年代に連発したのはその一例だろう。
 ポーターの理論はそうした成長の罠を戒め、業界平均を上回る持続的な収益性の達成を念頭に置き、業界内でユニークなポジションを確立することを肝に銘じて戦略を展開せよと説いているのである。


【Michael E. Porter】
1947〜。競争戦略論の世界的権威の一人。ハーバード・ビジネス・スクール教授。プリンストン大学工学部卒業後、ハーバード大学でMBA、経営学博士号を取得。コスト・リーダーシップ、差別化、集中などの戦略と、機能結合としての価値連鎖をベースとして、理論構築している。戦略手法としてはファイブフォース分析などが有名。主著に『競争の戦略』『競争優位の戦略』など。


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一橋大学大学院国際企業戦略研究科 研究科長
竹内弘高
たけうち・ひろたか/ポーター著『競争戦略論I・II』の訳者であり、「ポーター賞」の設立に尽力した。『ベスト・プラクティス革命』など著書多数。

宮内 健=構成

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  • 最終更新:7月 4日(土) 14時21分
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