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1月28日(土)に放送した「ETVワイド ともに生きる」では、「女性の“うつ”」をテーマにお送りいたしました。生放送の中でうつ病体験者の皆さんが語り合ったということは、この番組の大きな特徴であったかと思います。
きょうは、うつの体験者でいらっしゃる萩原流行さん、摩侑美さんご夫妻をスタジオにお迎えし、あらためて“当事者の話”を伺います。 |
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![VTR画像:萩原流行さん、摩侑美さんご夫妻](/contents/005/805/202.mime4) |
萩原流行さん、
摩侑美さんご夫妻 |
ゲスト:
萩原流行さん、摩侑美さんご夫妻 |
−ご夫婦でうつに向かい合っていらっしゃるお2人ですが、「ETVワイド」で初めてご自分のうつをお話になった摩侑美さんは、特に反響が大きかったそうですね。
摩侑美: 友達からのメールやホームページへの書き込みなどで、励ましや、「いい番組に出ましたね」「とてもいい夫婦に見えました」というようなことを。
流行: 僕は彼女が語った内容を全然知らなかったので、放送でその内容を聞いた時に、「そこまでしゃべるのか」とすごくショックを受けました。ためらい傷のことまで彼女は話していましたが、それはタブーだと僕は思っていたので……。 |
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妻の“うつ” |
俳優 萩原流行さんと、妻 摩侑美さん。結婚して30年の同い年、仲良しカップル。夫婦の危機はあった。しかし、乗り越えてきた。大きな転機となったのは、妻のうつ。
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何て言えばいいんだろう……。「もう、わたしがいないほうがいいのか」という受け止め方をして、「死んでしまえ」と思って。ここ(手首)にためらい傷が2つほどあるんですけれど、お医者さんに薬をもらいに行った時、「何だそれは」と言われました。(摩侑美さん)
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全然気づかなかった。自分の仕事をこなすので精いっぱいで、悪いけれど奥さんのことまで考えていられない。正月にやっと1週間休ませてもらえると、かぜをひいてしまってバタンキューで、おせちどころではない。とにかく正月は寝たきりという状態でしたね。6年くらい……。だから、かみさんのことを振り返っている暇はなかったです。(流行さん)
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突然直面した妻のうつ。夫はとまどった。うつと向き合うまでには時間がかかった。
2人が出会ったのは共に18歳の時、劇団仲間だった。初めて共演した舞台で、流行さんのひとめぼれ。
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摩侑美さんも、流行さんの才能に強くひかれた。
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22歳で結婚、共に人生を歩み始めた。結婚して、流行さんはますます芝居に打ち込むようになった。活躍の場はやがて、テレビや映画にも広がった。
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結婚10年目、そんな夫を見て摩侑美さんは決心した。専業主婦になり夫を支える道を選んだ。
外に出れば、「うちの奥さん」とか言いますけれど、うちの中では「おい」しか言いません。絶対的な自分のペースに、わたしが全部合わせていた状態。(摩侑美さん) |
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うつへの軌跡
夫は亭主関白だった。毎日家事を完ぺきにこなした。すべては順調に思えた。
2年くらいは非常に快適でしたね。ただ、「食べさせてもらう」ということに関してはちょっと抵抗が……。「人のお金で生活するというのが、何か居心地悪いな」って。反対だったら、食べさせてあげるほうだったら気が楽だったと思うんですけれど。(摩侑美さん)
どんなに遅く帰っても、夫は家で夕食を食べた。明け方になっても、摩侑美さんは食べずに待ち続けた。
家にいる負い目、不規則な生活。ストレスがたまっていった。しかし、夫はまったく気がつかなかった。
僕が稼いでいる金で食べているということで、僕に対して「悪い」ということばを初めて聞いた時、「何言ってるの?」というくらいで、別に気にも留めなかったんです。(流行さん)
やがて摩侑美さんに異変が現れ始めた。思うように家事ができない。集中力が続かない。
新聞を読まなくなってきたのに自分で気がつきました。面倒くさくて読めなくなっちゃうんですよ。うっとうしいというか、活字を追っていても、同じ所ばかり読んじゃうんです。(摩侑美さん)
芝居に打ち込む夫によけいな心配はかけたくない。摩侑美さんは夫に打ち明けることができなかった。そして、症状はさらに悪化していった。
布団に入っても2時間、3時間と天井を見つめ、眠れない。
自分の感情をコントロールできない。何か知らないけれど、ダーッと涙が出てきちゃう。こうなった時に、「あ、これは病気だ」と自分で割り切って、「病院、行きます」と。(摩侑美さん) |
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妻が“うつ”に。夫は……
診断は、うつ。摩侑美さんはこの時初めて夫につらい気持を打ち明けた。流行さんは予想もしなかった現実に直面した。
「とにかく、奥さんに対して『ノー』ということばは一切使わないでください。『それは嫌』とか、『そんなのしたくない』ということは、ひと言も言っちゃいけません。彼女の言っていることは、とりあえず全部受け入れてください。それをしないかぎり彼女はよくなりません」とお医者さんに言われました。「はあ、そうなんだ……」と、頭ではわかりますけれど……。(流行さん)
逃避しましたね。「わたしを見ていたくない」「そういう家に帰りたくない」と。(摩侑美さん) |
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夫も“うつ”に
妻のうつに、夫はすぐには向き合えなかった。転機は思わぬところからやってきた。
妻がうつになって3年、流行さんは大きな舞台で主演を務めることになった。初めてプロデュースにかかわった舞台だった。
初日、40度の熱に襲われたが、最後までやり遂げた。主役の重圧、スタッフへの気遣い、体調の悪化。舞台の終わった直後、流行さんは自律神経のバランスを崩し、重いうつ状態に陥った。
まさか自分が芝居のプレッシャーに負けて、自律神経のバランスを壊して、うつの病気になるとは、ほんとうに想像もしなかったし。(流行さん) |
わが身を襲ったうつ。これをきっかけに流行さんは変わっていった。
自分がうつになる前は、うつの彼女を見て理解できない部分がたくさんありました。「どうしてそんなことばひとつでこんなに傷つくんだろう」とか。でも、自分がうつ病になって、「それがどれだけ人を傷つけるか。存在否定をされたような気になる」ということを経験して初めて彼女がオレのことばでどれだけ傷ついていたかがわかりました。(流行さん)
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夫婦の関係も徐々に変わり始めた。
すごく優しくなって、お茶を自分でいれるようにもなったし、自分がいれる時はわたしの分までいれてくれるようにもなった。「いっしょね」というふうになった。(摩侑美さん) |
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妻がうつに 夫は…… |
−最初は奥さんのうつ、ずっとわからなかった?
流行: もともとちょっと変わった人だったので、そういう人だと思っていましたから、病気とは全然感じなかったんですよ。
−家事がだんだん滞ってきたということも、気づかなかった?
流行: はい。僕には見せませんでしたから。
−見ていなかったんでしょう。
流行: たぶんそうだと思います。とにかく、僕が仕事をして頑張らないと2人の生活が成り立たないというのと、嫌というほど仕事が待っていて、こなさなければみんなに迷惑がかかるという現実もあって、家庭は顧みませんでしたね。
−医師に言われて、初めて彼女がうつだとわかったのですか?
流行: NHKで神経の病気に関するドキュメンタリー番組をやっていて、そこで紹介されていた入院施設のある病院をたまたま覚えていたんです。そうしたら、ある日、「あした、病院に連れて行って」と、その病院名を言われて、その時に初めて「え、うそ」って。
次の日、仕事を遅らせてもらって、彼女を連れて病院に行って、待合室で待っている時に、「そんな病気に彼女はなっているんだ……」と、もうパニックになっていましたね。それまでは、もともと神経質な人ですから、その神経質でちょっと疲れているのかなくらいにしか思っていませんでした。 |
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女性の“うつ” 萩原夫妻の場合
−摩侑美さんも、流行さんには言えなかった?
摩侑美: 言えなかったですね。この病気は、「何でこんなことができないんだ」と自分を責めるんですよ。夫は仕事に一生懸命。それをサポートすることがわたしの仕事だと自分に言い聞かせて、一生懸命やろうとするけれども、心の病気なので……。
心のエネルギーというのはものすごく大きいそうですね。体力的なエネルギーよりも心が使うエネルギーのほうが大きいので、もう疲れ切っているわけです。だから、「やらないのはだらしがない」とか、「何でこんなに自分はダメなんだ」とか、自己嫌悪との闘いです。
−病院に行き、摩侑美さんがうつだとわかった。でも、夫としてどう気遣っていいのか戸惑うばかりだった?
流行: 医者に言われたとおりはやりましたけれど、心底理解はできないし、ちょっと一歩引いて見ると単なるわがまま。夫からしても、「何でそんなわがままばかり言って」って。「オレだって疲れているんだ」と言いたくなるような。それをカバーしようと思うんだけれど、カバーしきれないで自分の中でこぼれて、ちょっとしたことばで彼女を傷つけるということの繰り返しでした。
−「コーヒーをいれようか」と言ったら、「そんなのわたしがやるわよ!」と?
流行: 初めはそうでしたね。
−理解できるようになったのは?
流行: 僕が発病して、同じ症状で苦しんだ時に「ことばでこんなに人を傷つけて、ずたずたにするものなんだ」と初めてわかりました。「何もしたくない」というのもよくわかりました。僕も何もしたくなかったです。でも僕は休むわけにいかない。現場に行ってやらなきゃいけないことがたくさんある。うつ状態なのにそう状態にならなきゃいけないというギャップを毎日往復している生活でしたから、僕は悪化する一方で、全然よくなりませんでした。とにかくひきこもりになりたい。会いたくない。しゃべりたくない。見たくない。聞きたくない。でも時間になったら行かなきゃいけない。
−そして、お仕事では気分を盛り上げなきゃいけない?
流行: そう。暗い萩原流行なんか誰も見たくないだろうし。 |
−ほんとうは、薬をのんで、休養するのが一番ですよね。
流行: 「安静にしなさい」と医者にもさんざん言われました。だけど無理ですよね。その折り合いをどうするかは自分で図るしかないので、相当時間がかかりました。
摩侑美: うつと言っても十人十色だし段階もいろいろあるので、そのころわたしは少しよくなってきていて、少し余裕が持てるようになっていたんです。
この人は何しろ、仕事から帰ってきたらしゃべりまくるんですよ。「きょうはこうだった、ああだった」と。わたしがごはんの支度をしている後ろをついて歩いて、ずっとしゃべるんです。
結局、それがストレスの発散なんですよね。外から持ってきたストレスを全部発散するためにしゃべる。「ああ、そうですか、そうですか。じゃあ、ごはん食べよう」と言って、やっと落ち着くんです。 |
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夫婦でうつに向き合って
摩侑美: わたしはその時には、もうだいぶ自分でコントロールがつくようになっていましたから、「あ、落ち込むぞ。これからひどくなるぞ」という時に、引っ張り上げることができました。
流行: ずいぶんアドバイスをもらいました。
摩侑美: 「そっち行っちゃだめよ」と引っ張るのと、自分がそっちに引っ張られないように頑張る。2人で行ってしまったらもう終わりだから。
流行: いっしょに落ちるところまで落ちちゃうと、もうダメですけれど、どっちかが途中で頑張って、踏ん張って、ヨイショと持ち上げられるということが必要なんですよね。
摩侑美: だから、ほんとうによくお互いの状態を見ていますね。
流行: 朝起きて、「おはよう」と言って、「今朝の気分はどうなのかな?」って。「よく眠れた?」みたいな会話から始まります。
−以前の流行さんでは考えられない?
摩侑美: 考えられません。黙って座って、何かが出てくるまで待っているという感じでしたから。
−ある意味で、夫婦がほんとうに向き合ったということですね。
摩侑美: そうですね。家事も教えました。ごはんの作り方、洗濯のしかた、掃除のしかた……。「やってくれ」ということではなくて、例えばわたしが「ちょっと旅行に行かせて」という時に、「あなたは1人の時にどうするの?」「もしわたしがいなくなったら、あなたは1人でどうやって生きていくの?」ということで、これくらいはできるようにしておかなきゃ、今の時代はだめよって。 |
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〜視聴者からのお便り〜 |
「結婚して15年がたち、今、わたしはうつ病になり、彼がわたしのために初めて立ち止まり、後ろを振り返ってくれました。ほんとうにうれしかった」
(30代 うつで入院中の女性から) |
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摩侑美: これは力強い支えになると思います。一番近くにいる人間がわかってくれるということが、一番大きな力になると思います。
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うつになってわかったこと、変わったこと
流行: 他人のことを見て、その人のことを思うことができるようになりました。今までは自分が中心で、自分が大切で、自分の感情が一番。でも、「相手がある」ということを再認識したというか、初めて気づいたというか……。相手あっての自分。家庭の中では、摩侑美さんがいるからオレがいるということに気づきました。
僕はやんちゃ坊主でしたから、かなりたいへんだったと思います。でも、30半ば過ぎて、病気のおかげで初めて夫婦らしき形態になったかなというのはありますね。
摩侑美: 親よりも長くいっしょにいますから、この人とずっといっしょやっていくんだろうと思うし、今のわたしをほんとうに理解しているのは、やっぱりこの人だけだろうなと思います。そういう存在があったから、わたしはここまで回復できたし、人に対しても思いやれる余裕ができました。感謝しています。 |
−うつで苦しんでいる方、たくさんいると思いますが、ぜひ言いたいことがあるそうですね。
摩侑美: 例えば右手を骨折している人がいたら、生活は不便ですよね。そしてそれは人が見てわかることですから、「お手伝いしましょうか」と思いやりを持つことができます。
だけど心の病気は見えませんから、「どうしたの? 何でやらないの?」となってしまうんです。ほんとうは病んでいて、やりたくてもできないんだということを理解していただければと思います。そういう人たちのために、ほんの少しの優しさがあれば、それは薬以上の効果があります。それから皆さん、一番大事なことは、睡眠です。寝てください。
流行: うつは決して治らない病気ではありません。僕の周りの役者さん連中でも、本人が気づいていないだけで予備軍はたくさんいます。
摩侑美: 少しでもそういう兆候があったら、病院に行って、治療を受けて、早く治す。
流行: がんじゃないですけれど、早期発見が一番です。
萩原さんご夫妻のような体験者の方が声をあげてくださることによって、勇気づけられる人も多いと思います。きょうはどうもありがとうございました。
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● 出演
ゲスト:萩原 流行さん(俳優)、萩原 摩侑美さん(妻)
キャスター:町永 俊雄アナウンサー
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