在日の慰安婦裁判をさせる会編「オレの心はまけてない」を読む
市民記者になって4年の間に、いろいろな本を読ませてもらった。
未知なるものを知るよろこび、真実を確かめる喜び、他人の体験を自分のそれに重ね合わせて共感をうるよろこびなど。
でもこの本は違った。読むたびに息苦しくなるが、読まなければならない本だ。
一人の在日コリアンが僅か16歳で従軍慰安婦として中国戦線に強制れんこうされて、明日は戦場で死ぬという日本兵を相手にセックスを強制される。「言うことを聞かなければ」と兵隊だけでなく、日本人の管理人からも殴る、蹴るの暴行を受けて、頬にタコが出来る。片方の耳は聞こえなくなった。逃げ出したくも、どの道を行けば逃れることができるのか?毎日相手にされて、その償いの金は、管理人の懐に入り、彼女には食事代、衣服代の借金だけが残された。まさにこの世の地獄をソンさんは大権してきた。
どんなつらいことがあろうとも生きなければと、必死の思いで日本語をおぼえ、苦しみに耐えた。他の慰安所ではクレゾールを飲んで自殺した人もいる。兵隊と心中した慰安婦もいる。生きていて幸せが来るのか?死んだ方が幸せになるのか?戦争が終わって結婚の約束をした兵隊に上陸地点で放り出されて、やっとのおもいで宮城県にたどりつく。そこは彼女の故郷ではないから周囲から白い目で見られ、裁判を起こすほどに日本に不満があるなら韓国へ帰れと、周囲の人から怒鳴られる。
戦争中はお国のためだと言い含められ、日本にもどったら韓国へいけとどなられた。
「オレは精いっぱい、いわれるままに生きてきたのに、どうしてこんな状態で78歳まで生きてこなければならなかったのか。」
本当のことを知りたい。間違ったことをした人は謝ってほしい。私はお金や名誉のために裁判に訴えたのではない。本当のことを知りたいから。これからの若い人が、戦争で間違いを起こさないために、裁判に訴えるのだ。自分のような惨めな思いをして生きなくてもすむようにしたいのだ』。
怒りを乗り越え、周囲の人の励ましを受けながら、すこしづつ人間としての感情を取り戻していくソンさんの裁判記録がこの本だ。
冒頭に掲げられた東京高裁の最終陳述書にあるソンさんの言葉「あんな戦争を2度と繰り返してはいかん」という言葉を重く受けとめたい。
支える会の活動、ソン・シンドさン本人の尋問調書、ソンさんと出合った日韓の女性たちの感想のほか、資料4編が掲載されている。
10年に及ぶ裁判で、ソンさんが訴えたかったことは、『慰安婦問題を子どもたちの時代までもちこしてはいけない。裁判所は勇気を持ってきちんとした判決をだしてほしい。オレのようなオナゴを2度出させないように』というねがいで過ぎ去った60年の間の苦しみや悩みを、時には怒り、時には酒を飲んで腹をたてながら、じぶんの生きた人生を赤裸々に語ることが一番必要だし、みずからも悟って裁判を戦い抜いた。
平和を愛する人たち、日本国憲法を守ろうと活動するかたがたが、歴史の真実をしっかりつかむためにも、ぜひ最後まで読んでほしい、心が痛くなる本である。
書名『オレの心はまけてないー在日朝鮮人慰安婦宋神道(ソン・シンド)のたたかい
樹花舎(きのはなしゃ)2007年9月発行電話03-3947-1011
(090703)