弾幕への道 エスプガルーダ
STGをプレイする人ならば、一度は耳にしているであろう言葉「弾幕」。画面上を覆う無数の弾の嵐を必死にかいくぐっていく自機。ゲーセンでSTGを見ていると必ず目にする光景である。この光景を生み出した仕掛け人が『首領蜂』シリーズなどを代表作に持つCAVE(ケイブ)だ。 (続きを読む…)
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第3回 「メギ曜日の風景」 夏休みがはじまった。 ハルカは、大田区郷土博物館にいた。 大田区には、日本の考古学発祥の地として知られる、かの有名な大森貝塚がある。西馬込の郷土博物館は、そうした地元の考古学的資料を収めた、区内でも有数の施設だ。 とは書いてみたが、もちろん、好きでハルカがこんなところに来るはずはない。 夏休みの課題、その名も「古代の大田区」という、もの凄くやる気の起きなさそうなレポートのために、ハルカはクラスメイトと三人でここを訪れていた。 館内は同じ目的の中高生で、まだ午前中だと言うのに結構混みあっている。二階にある考古学展示室のガラスケースの中には、大森貝塚から出土した土器の破片や貝殻などが、年代別にきちんと分類され、わかりやすく展示されていた。 しかし、あいにくと、それはハルカたちの興味をそそるものではまるでなかった。だが、一応は全部見ないとレポートがまとまらない。 貝塚を発見したモース博士の生涯や、大田区でいまも取れる海産物など、どうでもよさそうな部分も加え、ひととおりの材料を揃えるには、結局一時間ほどかかってしまった。だいたい大田区に古代もへったくれもなかろう。 他になにか見落としはないかと、奥の部屋を覗いたハルカは、そこがすでに見学の順路から外れた、別の展示室になっているのに気付いた。 おそらくは、夏休み期間中の展示企画なのだろう。小さな一室に、古ぼけた油彩や水彩、小さなブロンズ像などが飾られていた。 客はだれもいない。そのせいか部屋の空気が少し涼しく感じられた。 どうやら大田区内の様子を描いた絵画などを展示する企画展のようだ。考古学の展示同様、ここもまた、見るからにあまりぱっとしない絵が並んでいる。 昔の羽田空港、東京湾、蒲田の操車場。大きなカンバスに、絵の具を豪勢に塗りたくった、いかにも素人みたいな絵ばかりだ。古そうなものも多い。数をそろえるために、無理にかき集めたのだろうか。 涼みながら、ぼんやりと絵を眺めるうちに、ハルカはそのうちの一枚にふと目を止めた。 愕然とした。 あの菫色の世界が、そこに描かれていた。 それは、暗い紫で描かれた多摩川の風景だった。まだ周囲に建物がほとんどなく、護岸されていないところから見ると、かなり昔に描かれたものなのだろう。 油彩画で、ハルカの目から見ても、絵としてはかなりヘタだ。 紫一色のトーンで塗りつぶされた画面は、普通の人間が見れば、たんに下手な印象派もどきと思うかもしれない。しかし、ハルカは直感で、それが何を描いたものであるかを理解した。 それはハルカにとって、決して見間違えるはずのないものだったからだ。 そこには、こう題されていた。 ハルカは、古ぼけた小さなカンバスの前で、しばらく立ちつくしていた。
「後藤伸吉?ああ、特別企画のやつね」 そこは博物館の事務室だった。ハルカはあれからすぐにクラスメイトと別れ、ここを尋ねていた。「野村」と名札をつけた、この学芸員のおじさんと、窓口に座って、何か帳簿のようなものを付けているおばさんがいるだけで、部屋の中はしんとしていた。空調がよく効いていた。 ハルカはこの野村さんに、わりに気安く話をしてもらうことができた。 ハルカはオウム返しに繰り返した。なるほど、描かれた時代からすれば作者は死んでいても不思議ではなかったが、いきなり手がかりが消えてしまった気がして、思わずガックリきたのだ。 多分仕事がヒマなのだろう。野村さんは聞いていないことまでべらべらと喋ってくれた。 ハルカはふと、さっきの言葉を思い出して言った。 野村さんは気軽にそう言った。あまり人気があるとは言えない博物館の収蔵品に、興味を示してくれる生徒がうれしいのだろう。 地下に資料室があった。 野村さんがドアを開けると、少しかび臭い空気が中からあふれ出し、鼻をついた。ごたごたした様々な資料で天井まで一杯で、郷土資料の束や、未整理の土器。体験学習に使われる説明用の大きなパネルなどに混じって、部屋の片隅に、埃をかぶった麻の大きな包みがあった。 野村さんは埃をはらいながら、包みの中を開いてハルカに見せた。 「これ全部そうだよ。」 ハルカは思わず震えながら、その中身を確かめた。 さまざまな大きさのカンバスと、大判のスケッチブック。古びて黒ずんだノートか手帳らしきものが何冊かあった。 どれも60年以上前のものだ。 火事にでもあったのか、どれもあちこち焦げたり、カビやシミに侵されたりしている。 展示されていた絵は、かなり程度がましなものだったことを知った。 人物画や静物画は一枚もない。どれも風景画か、抽象画のようだった。あいかわらず下手だ。そもそも構図がなっていない。適当にシャッターを切った写真のように、とりとめなく風景が切り取られている。そのどれもが、紫のモノトーンで執拗に塗りつぶされていた。 一枚きりのときはそれほど感じなかった、妖気のようなものが、そこからは漂ってきていた。 この絵を描いたものは、偉大なる冒険の先達などではなく、単なる異常者ではなかったのか、という疑問が膨れ上がった。 おもわず背筋が寒くなった。 もっと確実な証拠を探さねばならない。 かび臭いカンバスを息を潜めてめくり続けると、数枚目に、それはあった。 町工場の風景のようだ。林立する電柱か、煙突とおぼしきその上に、空を横断する光の弓と、同心円を描く星が描かれていた。コンパスをつかって厳密に星の位置が定められ、いくつかには「カシオペイヤ」などの名前が鉛筆で記されていた まちがいない。風景画にこんな太陽や星を、星座の名前まで書き込む必要はないだろう。 さらに、カンバスの端に幾筋も惹かれた線にも気付いた。先ほどは額に入っていたために見えなかった部分だ。目を凝らすと、絵の下地にもうっすらと格子模様が見えた。 下地にしては目立ちすぎるそれは、何か資料写真のガイド線のようなものに見えた。 ハルカは悟った。これは絵ではない。図なのだ。あの世界を、カメラを使わず、できるだけ正確に記録しようとしたものなのだ。 「これ、貸してもらえませんでしょうか!」 ハルカは思わず叫んでいた。
是ハ狂気ノ●●(産物?)ニアラズ、又妄想ニアラズ。 これが「後藤伸吉文書」の導入部だ。 いくら資料的価値はゼロでも、寄贈された博物館の資料を持ち出すことはできなかった。だがハルカは、驚き渋る野村さんを説き伏せるように、あのキャンバスやノートの束を、これから夏休みの間、自由に見せてもらえるよう、約束を取り付けることに成功した。 夏休みの自由研究にする、というのがそのタテマエだが、思わず彼がそれを信じるほどの熱心さを持って、ハルカは博物館に日参し、謎めいた「後藤新吉文書」を調べはじめた。 なにしろ60年前の物だ。あらかじめ保存を考えて作られているカンバスはまだよかったが、ノートや手帳は、すでにボロボロになっていた。 そもそもひどく紙の質が悪い。火災による焼けこげや、湿気によるカビなどで読めない部分も多かった。記入に使われているのは鉛筆と万年筆だったが、万年筆の部分はにじみもひどい。 ハルカにとって、ほとんどなじみのない、いわゆる「旧カナ」も解読を困難にしていた。 印象としてはほとんど古文書に近い。だが、今のハルカにとっては、まるで宝島の地図のようにも感じられた。 ハルカはとりあえず、資料の全体をまとめることにした。 書き出してみると以下の通りである。 全42ページ。表紙は紛失 ノート2~5(研究記録) ノート4の表紙に「研究」の記述あり。以下のノートには通し番号がつけられている。 ノート5はカビなど破損が激しく、ほぼ判読不能 ノート6、7、9、10 紛失の模様(通し番号から推察) ノート8(図録?) 表紙に「図録」の記述あり こちらもカビなど破損が激しく、ほぼ判読不能 ノート11(●諦?) 手帳サイズ、通し番号の最後だが、記述は最も古くからと思われる。 表紙は紛失、3ページ目に「●諦(?)」の記述あり ●スケッチブック全二冊(F6) 水彩画 ほぼカビのため変色、判別不能。 ●油彩画 カンバス全9枚 カンバス1~3(8号) 多摩川からの風景とみられるもの 全体的にカビがひどく、展示されていたのは一番状態のよいカンバス3 (裏面に「メギ曜日の風景」の記述あり) カンバス4~6(6号) 工場地帯の風景 カンバス4はカビのため上半分は汚損 カンバス5、6には鉛筆にて星座名などの書き込みあり。 カンバス7(6号) カビのためほぼ判別不能 カンバス8(5号) 「0犬」図 カンバス9(5号) カビがひどく、何か抽象画のようにも見えるが不明
ハルカはまずカンバスから手をつけることにした。「メギ曜日の風景」の、強烈な印象もあるが、カビと旧カナで埋め尽くされたノート類の判読は、ハルカにとっては相当にやっかいだったためだ。 描かれた内容以前に、まずカンバスそのものについてだが、大田区住民にはおなじみの、蒲田の画材屋「ユザワヤ」にて調べてみると、実は結構な値段がする。油絵の具などの画材とあわせればなおさらだ。戦時中にこれだけのものを入手できた伸吉というのは、かなり豊かな家の生まれに違いあるまい。 9枚のカンバスのほとんどが、風景画(というより図)なのは、すでに述べたとおりだ。 なぜ写真でなく絵で残したか、しばらく考えてわかった。おそらくあの世界では、カメラの中身が残像化して、写真に撮れなかったのだろう。 ハルカが最初に見た「メギ曜日の風景」を含む、カンバス1~3は多摩川の風景。 これらはサイズでいうと8号。もっとも大きく、緻密に描かれている。 カンバス4~6は工場地帯の風景。ただ、どれも画面の半分以上を空が占めており、主に天体観測が目的ではないかと思われた。どれも、同心円を描く星や、弓のような太陽が描かれている。 カンバス7と9は、カビのためもあって、ほとんど何も見えない。カンバス9が、8と同じ5号サイズなことから、あるいは連作かもしれないと推測できる程度だ。 ハルカの目をひきつけたのは、カンバス8だった。 それは、黒と茶色で塗りつぶされた抽象画だ。菫色の背景に、何か塊のようなものが、画面いっぱいに描かれていた。 複雑に入り組んだ椰子の葉のようなものが、一見描き殴ったように見えて、細かい線の一本に至るまで、画面の左右で完全に対称になっていた。 カンバスの裏にはこう書かれている。 「0犬」 わざわざ「ゼロイヌ」と読みがふってある。 何のことだか、まったくわからない。ただ異常に厳密な左右対称の構図とあいまって、なんともいえない強烈な印象があった。
カンバス1~3についても新たな発見をした。 カンバスの端にガイドのような線がいくつもあったのはすでに書いたが、よくよく調べるうちに、さらに「東」「北」など方角や、「イ-ロ」「ロ-ハ」などの小さな記号が、カビの汚れに紛れて書き込まれていることに気付いたのだ。 絵を並べてみて、これがカンバス同士をつなぐための目印だとわかった。 どうやらカンバス1~3は、視界を三枚の絵に分けて描いた、いわばパノラマ図のようなのだ。 「メギ曜日の風景」は、その中央にあたる部分だったことになる。 なぜこうした工夫をしたのか。おそらくこの場所が、伸吉にとってなにか特別な意味を持っていたのだではないだろうか。 だとしたらその理由は、カンバス1と2の端に、それぞれ対のように描かれている、二つの建物にあるのかもしれなかった。 カンバス2に、大きく描かれたほうは「圓團圖門」。伸吉による注釈ではなく、建物自体にはめこまれたプレートにそう書いてあった。古い建物などによくある感じだ。 多摩川の土手に建つそれは、ずんぐりとした石造りで、門とあるが、多分水門の一種なのだろう。そこだけ色調が黄色味がかっており、よく目立つように描かれている。 「圓團圖」の部分は、実はよく判らない。雰囲気を伝えるため、形の似た字を適当に当てはめてみたのだが、実際にはもっと画数が多い。 カビのせいもあるが、おそらく現代では使われていない古い漢字なのだろうと思った。 その複雑な線の塊は、まるでハングルやロシア文字を見るときのように、「一見読めそうで読めない」という、あの感覚でもってハルカの脳を混乱させた。じっと見ていると妙に不安になった。 いずれにせよ、ハルカはできるだけ早く、これらパノラマの描かれた場所を見つけ出そうと決心した。 なぜか。 もう一方、カンバス1の端に描かれていたのは、あの「塔」だったからだ。 あの日、7月17・5日に、イトーヨーカドーと、ライオンズマンションとの間に、ハルカが見た同じ「塔」だ。朝目覚めたときには、どうしても見出すことが出来なかった、あの「塔」だ。 二つの建物は、ガイド線で繋がっていた。 おそらく「圓團圖門」と「塔」は、パノラマ上では一直線上にあったことになるのだろう。カンバス1は、ほとんどカビに覆われていたため、ガイド線がなければ、ハルカは「塔」の存在には気づかずじまいだったに違いない。 ハルカが見たものより少し大きいような気がする。距離が近いせいだろうか。 60年前の伸吉が、やはり自分と同じものを見ていたという事実に、ハルカは強く興奮した。 それにしても、なぜ伸吉はこの場所を選んだのか? この場所には何があるのか? なにしろ60年前だ、すっかり風景も変わってしまっているだろうから、場所を特定するのは難しいかもしれない。 だが、幸い今は夏休み。多摩川までは自転車で10分だ。 一日を費やす価値は十分にあるとハルカは思った。
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