人気のNHK大河ドラマ「天地人」に忘れられない場面があった。戦国武将上杉謙信亡き後の家督争いをめぐり、主人公直江兼続がとった大胆な行動だ。
混乱に乗じて上杉を滅ぼそうとしていた宿敵武田の本陣に乗り込み、和議を図った。だれもがあっと驚く、追い詰められてひねり出した窮余の一策である。同盟が成立し、起死回生となった。
政権与党の座に執着する自民党も、危機に対応する奇策にたけていた。1994年には、対立してきた社会党と手を結び、自民、社会、新党さきがけの連立政権を樹立させた。自民党のしたたかさが鮮明に焼き付いている。
麻生政権は支持率が低迷し、迫る衆院選を前に、がけっぷち状態だ。挽回(ばんかい)しようと人事に打って出たが、閣僚の兼務を減らすための補充だけ。しかも、任命した経済財政担当相と、国家公安委員長の2氏の知名度は低い。あまりの地味さにあきれてしまう。
首相とすれば、人事に関する周囲の憶測が先行したことから、一度熱を冷まそうと目くらましをしたのかもしれない。期待を裏切っておいて、あらためてまさかの人事を断行すれば起死回生策となり得る。次なる手があるのか、ないのか。
兼続は、命をかけて武田の本陣に乗り込んだとされる。ぶれる首相に覚悟がなければ、じり貧だ。