重役たちとセックスのわな――フィナンシャル・タイムズ

フィナンシャル・タイムズ2009年7月3日(金)16:28


(フィナンシャル・タイムズ 2009年6月30日初出 翻訳gooニュース) ルーク・ジョンソン


イタリアの元副文科相がこのほど、「権力の座にある男たちには、セックスがたくさん必要なのだ」と発言した。「ベルルスコーニが性的に欲求不満だと、首相としての職務をきちんと果たせない」とまで。実に興味深い発言だと思った。

元副文科相はもちろん、スキャンダル続きのベルルスコーニ首相について語っているのだが、同じことが、同じように強大な権力をもつビジネスリーダーにもあてはまるのではないかと思ったのだ。

約20年ほど前、私はエンターテインメント業界やマスコミ業界の企業に、受付や秘書を派遣する人材派遣会社のオーナーのひとりになった。そしてこの会社では、年頃の魅力的な女性しか派遣してはならないというのが、言わずもがなの不文律だった。というのもクライアント企業がそれを求めていたから。

ぶっちゃけて言えば、広告代理店も演劇プロデューサーもテレビプロデューサーもみんなが皆、どうせ雇うならものすごい美人がいいと希望していたのだ。一方で、この人材派遣会社を運営したのは女性4人。彼女たちが応募者を面接する時、私はそのフロアに立ち入り禁止だった。「男性上司」というもの対して、彼女たちはとても冷めた見方をしていたのだと思う。

中年から老年にさしかかりつつある男たち、しかも権力をもち要職にあるリーダーたちは繰り返し繰り返し、懲りもせず、若い女性たちと問題行動を起こすという危険な賭に挑んでいる。高いリスクにもかかわらず。その方が、優秀な経営者になれると思っているのだろうか。年をとってから若い女性とつきあいたがるこういう男たちというのは、若いころ女の子に対して自信がもてなくて、かつ20代前半で若くして結婚した連中ではないかと、そんな気がしている。

そういう男たちはもしかしたら毎日、宿題や休暇中のバイトで忙しすぎたのかもしれない。いつも成功を追い求め、大金持ちになろうと必死で、女性にもてようにも暇がなかったもかもしれない。だから若い頃に異性相手に羽目を外したり、周りの若い連中が話しているようなワイルドなセックスを楽しんだこともないのかもしれない。

しかしこういう連中がいざトップにたどり着くと、エゴは肥大しているし、ナルシシズムも極致に達している。おまけに、ここまで来ると連中には、新しい最強の武器を手にしている。ヘンリー・キッシンジャーがかつて言ったように「権力は究極の媚薬なのだ」。前にとあるパーティーでキッシンジャーが、ご婦人たちを魅了している様子を見たことがあるだけに、その言葉は正しいのだろうと思う。

もちろん、野心とテストステロンは密接に関係している。群れのボスになるオス(アルファ・メール)は必ず、野心もテストステロンも大量にもっていて、仕事やスポーツやセックスといった色々な分野で支配者になりたいという衝動に突き動かされているものだ。

それにはいずれも金とエネルギーが必要だが、そもそも企業トップというのは金もエネルギーも有り余るほど持っているものだ。心理学者の説によると、企業トップというのは実は製品をもっとたくさん売りたいとか、もっと金をたくさんもうけたいとか願って行動しているのではなく、本音部分では実はみんなが皆ロック・スターになって大勢のグルーピーにちやほやされたい気持ちがあるから、自分に出来る形でトップを目指すのだ——という見方もあるらしい。

億万長者が自分の欲望に忠実なあまり、結婚生活をぶちこわすだけでなく、キャリアも会社も失いそうになるという物語は、枚挙にいとまがない。あのビジネス・トップもこのビジネス・トップも、壊れた結婚や救いようのない不倫、混乱しまくった感情の軋轢などの残骸を、足跡のように転々と残している。

役員室があまりに無味乾燥で無菌室のようなので、企業トップたちは不倫や離婚といったドラマチックな展開に飢えているのかもしれない。あるいはついに大企業トップに上り詰めて初めて、若い美女との不倫という「禁断の果実」に触れるようになったため、あまりのめくるめくスリルに頭も下半身もポーッとなってしまうのだろうか。

大事な決定をいろいろと下す立場にある企業トップたちが、強すぎる性衝動の言いなりになっているという事例がこれほど頻発するのは、何とも不安な現象ではある。しかし私たちはみんな人間なのだし、自分で認めたい以上に、本能的な衝動に突き動かされて行動しているものなのだ。

「権力」というものの秘密をもっと理解できるようにするため、社会学者や人類学者や生物学者は、もっと起業家や政治家の生態を分析するべきだ。科学者たちは、アドレナリンとテストステロンの関係性を研究し、一部の成功者にとってアドレナリンとテストステロンがどう組み合わさると危険なのかを解明すべきだ。

自分のことを言えば、私は実は、女の子にもてようもてようとするついでに、ひょんな事でビジネス界に転がり込んだようなものだ。学生だった18歳のころ、私が大学で開くパーティーがあまりにやかましいので、大学側から退学にするぞと脅されていたほどだ。

大学の敷地内ではもうパーティーができなくなったので、仲間たちと一緒に地元のナイトクラブでパーティーを開くことにした。そこで仲間の一人が、せっかくなら参加者から金を取ろうと素晴らしいアイディアを思いついてくれたわけだ。おかげでその時から、私たちのパーティーはビジネスとなり、私はうっかり偶然、資本主義のとりことなってしまったのだった。

それ以来わたしはもっとまともな人間になろうと努力しているし、もっと年相応に行動しようと意識している。少なくともイタリア首相よりはましだと、それは言えると思う。

 


フィナンシャル・タイムズの本サイトFT.comの英文記事はこちら(登録が必要な場合もあります)。

(翻訳・加藤祐子)

 

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