2009.07.03
NEW【駄文･7/3】芦原英幸の手裏剣に想いを馳せる
(私にとって生涯の恩人にして尊敬の対象だった芦原英幸)
芦原英幸の手裏剣について少し書いてみる｡
もう4､5年前になるだろうか!? 私はある元芦原会館の重鎮にして幹部を務めていた人物から亡き芦原先生が形見として遺した手裏剣を預かる事になった｡全くいわれのない反逆者の汚名を着せられて芦原会館を追われた彼ではあるが､自らを空手家として育ててくれた芦原英幸に対する恩義を忘れず一時は生涯の宝として大切にしていくつもりだったという｡
しかし反逆者とされた自分が保有するよりも､今後の芦原会館にとっても重要な(これは彼の勝手な買い被りではある｡言い替えるならば利用価値があるという事だと私は理解している…)私に手裏剣を託するべきだと彼は考えたという｡
彼は丁寧にも手裏剣を紫色の絹の布に包み､高価な桐の木箱に納めた形で私に渡してくれた｡とはいえ､それは私にとっても極めて貴重な形見である｡恐縮しつつ彼から預かったものの､あまりに怖れ多くて暫くの間､自宅の小さな床の間に仕舞い込んでいた｡
しかしある日､私は思った｡
芦原英幸の手裏剣といっても何種類も存在する｡芦原先生自らの手製の手裏剣もあれば鉄工所に依頼した特注品もある｡材質も様々だ｡単なる鉄製もあるし､丁寧にも鋼に｢焼き｣を入れて日本刀の如く仕上げたものもある｡
私が預かった手裏剣はそれらの中でも特に手の込んだものだった｡随分使い込んだ様子で所々､小さなｷｽﾞや欠けがある｡
思えば1980年代､私が松山の総本部に足を運ぶ度､必ずのように芦原先生は手裏剣の妙技を見せてくれた｡人形(ﾋﾄｶﾞﾀ)の的に向かい彼が投げる手裏剣は心臓部もしくは眉間から金的までの正中線を見事なまで正確に捉えた｡そして､｢演武｣を終えると当たり前のように手裏剣の投げ方を私に指導してくれたものである｡
ならば…｡
私はこの手裏剣を桐の木箱に納めておくよりも常に肌身離さず御守りとして持っていたいと思った｡芦原英幸の｢魂｣をいつも感じていたいと願ったのである｡
手裏剣を油紙で包み､知人から譲り受けた革製のﾎﾙﾀﾞｰに収め､私はどこに行く時もﾊﾞｯｸﾞの中に忍ばせるようになった(飛行機に乗る時だけは預けるﾊﾞｯｸﾞに仕舞っていたが)｡
そのうち､ただ御守りにしておくのは勿体ないのでは…と思うようになった｡以前､芦原英幸は私に言った事がある｡彼が手にする手裏剣を見て｢先生､まるで研ぎ澄まされた刀のようですね｡使うのが勿体ないですよ｣と私が言うと､芦原先生はいつもの屈託のない笑顔を浮かべた｡
｢たとえ銘刀･村正だろうが虎鉄だろうが飾っておいたら錆びるだけじゃけん｡刀なんて昔の侍にとっては道具に過ぎんのよ｡使ってなんぼのもんじゃけん｣
こうして私は約半年前から手裏剣の練習を開始した｡手裏剣の柄の端に直径5ﾐﾘ程度の丸い穴が空いている｡芦原先生は､その穴に紐を通して手裏剣の練習に利用したと私に語った事がある｡
｢何ﾒｰﾄﾙかに紐を伸ばして木に向けて投げるんよ｡いちいち取りにいかんで済むけん｡それに間違って見当違いのﾄｺに飛んでも他人に害にならんけんな｡初心者はそうやって練習するもんなんよ｣
私も早速､麻縄を買ってきて手裏剣の穴に結わえ､約3ﾒｰﾄﾙの長さの部分を結んでﾀﾝｺﾌﾞを作った｡
最初は直打法という手裏剣の切っ先が真っ直ぐ目標物に刺さる練習を繰り返した｡芦原先生が教えてくれた基本的な投法である｡
これが実に難しかった｡
とにかくｺﾝﾄﾛｰﾙが利かないどころか､刃が刺さらないのだ｡切っ先が目標物に当たる瞬間､直角にならなくてはいけない｡そのﾀｲﾐﾝｸﾞがなかなか掴めない｡それでも何度も失敗を重ねていくうちに徐々にではあるが命中確度が高くなってきた｡結局､直打法をﾏｽﾀｰするのに3ｶ月は有に要した事になる｡
(切っ先をやや鈍くしているのは実戦において殺傷力を弱める為だと芦原先生は語っていた)
次は回転打法の挑戦である｡
回転打法は直打法よりも数段難しいが､回転力が加わる為､ｽﾋﾟｰﾄﾞも速く飛距離も格段に伸びる｡当然威力も直打法の比ではない｡
だが直打法をﾏｽﾀｰしてからいたからか､我ながら意外にも上達は早かった気がする｡1ｶ月も経たないうちに目標物が細い木でも約3ﾒｰﾄﾙの距離ならばほぼ百発百中になった｡
私は日曜大工の店でﾗﾜﾝ製の板を購入し､芦原英幸に倣ってそこに人形(ﾋﾄｶﾞﾀ)を太字のﾏｼﾞｯｸﾍﾟﾝで描いた｡そして麻縄の長さを約5ﾒｰﾄﾙに伸ばした｡自宅ﾏﾝｼｮﾝのﾙｰﾌﾊﾞﾙｺﾆｰの隅に板を立て掛け､再び繰り返し繰り返し回転打法の練習を行った｡
ただ芦原先生と異なるのは､目標を心臓や正中線ではなく下半身に絞った点である｡手裏剣投げの練習をする以上､私は当然｢実戦｣を想定している｡かといって相手を殺す訳にはいかない｡ならば確実に敵の動きを封じる大腿や金的上部を狙うのが現実的だと思ったからだ｡
まだまだ成功の確率はやっと50％を超える程度でしかない｡まして｢実戦｣では相手は動く｡手裏剣の奥義を極めるには遥か遠い道のりである｡
このような原稿を書くと現在の芦原会館の関係者は面白くないに違いない｡
｢ｵﾏｴには芦原英幸の名前など口にして欲しくない｣
これが正直な気持ちだろう｡約1年前､私は｢芦原英幸伝｣(最終的に私が著者､英典は協力という名目で落ち着いた)の内容に関して2代目館長の英典とﾄﾗﾌﾞﾙを起こした｡それ以来､私は芦原会館と絶縁関係にある｡手裏剣を私に託した人物には申し訳ないが､私も彼同様､芦原会館の｢ｶﾀｷ｣になってしまった事になる｡
だが先日､私は元芦原英幸の弟子と称する某の自叙伝を書店で目にした｡最初に不快感が体中を走り抜けた｡嫌悪感を抱きながらも､つい手にして本文を流し読みしてしまった｡
呆れ果てた｡
これを嘘八百と言わずして何と表現したらいいのだろう｡嘘か真実かは芦原先生が保有していたﾋﾞﾃﾞｵﾃｰﾌﾟが全てを物語っている｡その某が芦原道場時代､いかなる立場にあったか!? 真実を知る多くの証言者が存在する｡
表では善人で有能なﾋﾞｼﾞﾈｽﾏﾝの仮面を被っているが､一皮剥けば簡単に｢大阪湾に沈めたる｣と脅す最低最悪の人間である｡私は決して彼が表に出さない､否､出せない全ての真実と素顔を知っている｡しかし彼は私に手を出す事は出来ない｡
粟立つような怒りと情けない思いに､私はその本を手にした事自体が穢らわしく自己嫌悪に陥ってしまった｡その時…､芦原会館と一悶着起こした事をﾁｮｯﾋﾟﾘ後悔した｡
あの｢ｹﾝｶ｣には私にも落ち度があった｡私が何もかも｢正義｣だった訳ではない｡かといって私が取った行動を後悔していないし間違っていたとも思わないのだが…｡
私から絶縁状を叩きつけたようなものではあるが､英典に対する同情というか不思議な親近感を覚えてしまった｡思えば私は英典が小学2､3年生の頃から知っている｡また尊敬する芦原英幸の｢血｣を引いた人間だ｡どうしても憎み切れない複雑な想いを絶縁後も持ち続けてきたというのが正直なところである｡
考えてみれば､あんな本を臆面もなく書く(勿論､実際に書いたのはｺﾞｰｽﾄだし､私はｺﾞｰｽﾄが誰かも知ってはいる)ような相手だからこそ､英幸は｢芦原英幸伝｣の中で触れたくなかったのかもしれない｡
そう思うと私は今更ながら複雑な思いに駆られざるを得ない｡だからだろうか!? 最近､何故か手裏剣の命中度が下がりっ放しである｡
(了)
samurai_mugen at 18:59
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