○○○！知恵袋 橋下知事は鬼畜ですか？
|
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Ipomoea_batatasL_ja01.jpg#file
http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.1/jp/
質問者：匿名希望
保育園のイモ畑を潰した大阪府は本当に鬼畜なのでしょうか。
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/KoshianX/20081016/1224141158 マスコミはマスゴミで、何がひどいって大阪府がいたいけな子供を泣かせてるというストーリーで書かれてて、あまりに一方的すぎて素直に読めば「橋本知事ひどい!」になるし、うがって見れば「保育園あやしい政治団体みたいだな」になりがち、法律についても素人だけど、ちょいとネットを検索すればわかるよ、という記事にたくさんブクマがついていますが、結局、素直に読めばいいのか、うがって見ればよいのかわかりません。
回答者：いしけりあそび
どんな人：専門家 自信：自信あり
鬼畜かどうかはことばの使い方次第ですが、たいへんな問題をはらむ行為です。
取消訴訟も取消訴訟の提起に伴う執行停止も、数だけは、たくさんやっています。まあ、負けてばかりいますが、いちおう成果もあります。東京地決平成13年12月27日（退去強制令書に基づく執行が収容部分も含めて停止され、退去強制事由が存在するにもかかわらず、退去強制令書を発付することが、裁量権の濫用又は比例原則違反として違法である可能性が高いとされた事例。判例時報1771号76頁、自治研究 975号140頁、行政判例研究499）とか。行政訴訟に関する著作もあるので、少なくとも府知事のような素人（失礼。でも行政訴訟なんてやったことないでしょ？）よりはくわしいですよ。
さて、行政処分は、おおくのひとの利益（これを公益と表現するひともいます）にかかわります。そして、取消訴訟にはさしたる根拠のないものもあるでしょう。取消訴訟の提起によって処分の効力が自動的に停止されるとなると、行政の円滑な運営が阻害され、おおくのひとの利益が害されるおそれがあります。そのため、行政事件訴訟法では、行政処分に対して取消訴訟を提起しても、処分の執行は停止されないとされています（行訴法第25条第１項。なお、この根拠について、かつては行政処分の公定力＝行政処分は権限ある機関が取り消すまでは適法なものとしてあつかわれる、という効力＝に由来するとされていましたが、現在は執行停止原則をとるか、不停止原則をとるかは、立法政策の問題と理解されています。）。
しかしながら、行政訴訟では、判決をえるまでにかなりの時間がかかります。そのあいだに処分が執行されると、裁判の継続自体が困難になったり、たとえ事後的に当該処分が取消されたとしても、事実上、原状回復が困難となり、取消訴訟の目的がじゅうぶんに達せられないおそれがあります。
たとえば、外国人に対する退去強制令書の取消訴訟係属中に、その外国人が強制送還されてしまったら、弁護士と細かなうちあわせをするのはむずかしく、裁判をつづけることはほぼ不可能でしょう。送還されて何年もたった後であれば、勝訴しても、生活基盤がなくなっているので、事実上もどることはできないでしょう。
また、訴訟継続中に、処分の執行によって既成事実が作られてしまうと、裁判所は違法との判断がしにくくなります。場合によっては事情判決＝行政処分が違法でも、取り消すと著しく公益を害し、公共の福祉に適合しない事情がある場合には、請求を棄却するいう制度＝により救済が果たされない場合があります。
たとえば、小田急高架化事業認可取消訴訟では、第一審で認可は違法とされたものの、訴訟継続中も工事はすすめられ、控訴審では原告適格を理由に却下の判断がくだっていますが、控訴審も工事の進捗については無視はできなかったでしょう。また、アイヌの聖地におけるダム建設が問題になった、いわゆる二風谷ダム判決（札幌地判平成9年3月27日判例時報1598号33頁）では、土地収用の違法は認められたものの、ダムが完成していることを理由に請求は棄却されました。
そこで、行政事件訴訟法は、執行停止の制度を規定し、裁判所は、申立てにより、執行停止の決定をして、処分の執行停止を命ずることができることしています（行訴法第25条第２項）。
要件は、� ―殿腓並山欧鯣鬚韻襪燭甼杁泙良�要があること、�◆仝�共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと �� 本案＝取消の主張＝について理由がないとみえるにあたらないこと、とされています。こうした要件の判断を、（いちおう）中立な裁判所に判断させることにより、行政処分をとどこおりなく執行することの利益と、それによって被害をこうむる個人の利益の、バランスをとったわけです。
一審の執行停止決定に対しては行政側から、執行停止却下決定に対しては申立人から、高等裁判所に不服申立＝即時抗告＝ができます。
また、一審裁判所に対する取消訴訟の提起に伴う執行停止決定があった場合、停止の期間は、ふつうは一審の判決の言い渡しまでです。したがって、執行停止が認められても、一審で取消訴訟が棄却された場合、ふたたび執行が可能になります。そこで、控訴をする場合、執行の危険がある場合は、控訴の申立とともに、ふたたび執行停止を申し立てることになります。
ところで、執行停止は、取消訴訟よりは時間がかからないとはいっても、申立人が申立書を起案提出し、相手方がこれに対して意見書を提出し、申立人が再度意見書を提出し、相手方が場合によっては意見書を提出し、裁判所がこれらの書面を読んで判断をすることになります。わたしの場合だと、毎回、お金にならないくせに、証拠もあわせて電話帳一冊分くらいの書面はだしますので（裁判官がちゃんと読んでいるかはわかりませんが）、申立から決定までは、どんなに早くても、1ヶ月弱程度はかかります。即時抗告の場合は、それより早くはでるもの、やはりある程度の時間がかかります。
この間に、執行をすることはできるでしょうか。
してよいという意見もあるのかも知れませんが、実務上はしていません。なぜなら、上記の趣旨からすればあきらかなとおり、執行停止が申したてられた以上、当該行政処分が停止された場合に「公共の福祉」が害されるかは、裁判所が判断するというのが日本の法律の基本的な考え方であり、それをまたずに執行することは、裁判を受ける権利を実質的に奪うことになるからです。
その意味で、一審の却下決定に対して即時抗告があり、今月30日に大阪高裁が決定を出す予定であるにもかかわらず、それを待たずにした大阪府の行政代執行は、異例中の異例の措置といわざるをえません（※1）。司法判断を待たなかった理由について、「10年3月末に予定されている第2京阪の全線供用開始に間に合わなくなるため」と弁明していますが、こうした不利益が「公共の福祉」を害するか否かを、行政の独断にゆだねず、裁判所が判断すべきとしたのが、執行停止制度なのです。
ちなみに、退去強制令書に関して、執行停止申立後、決定までに送還処分が執行されたのは、わたしの知る限り40年前に1件あります。法務大臣は1968年に退去強制令書取消訴訟に伴う執行停止の申立後、決定が出る前に、送還を実施したことがあります。送還された外国人は国家賠償請求訴訟を提起し、東京地裁は裁判を受ける権利の侵害を認め、請求を認めました。この事件は、控訴審で原告逆転敗訴となりましたが、東京高裁は「裁判を受ける権利を奪うためではなく、自殺やハンストにともなう自損行為を避けるためだった」という苦しい言い訳をせざるを得ませんでした（東京高判昭和46年3月30日判例タイムズ260号172頁）。
それ以後、法務大臣（入国管理局）も、こうした執行はしていません。強制送還などその気になればふとんでスマキにしてやってしまえるのですから、これをやられれば、退去強制令書取消訴訟はひとつのこらずつぶせますが、そうしたやり方が、裁判を受ける権利を侵害することになるのを、彼らもわかっているのです。
日本の裁判所はいっぱんに行政と個人が対立する場合に、行政よりの判断をするとされています。しかしながら、個人が、行政によって権利が侵害されたと考えたときに、それを救済するための制度があるけどなかなか勝てないのと（※2）、そうした制度すらないのでは、雲泥の差があります。
橋下知事について、わたしは同業者とおもったこともないので、弁護士のくせに、とはいいませんが（※3）、その判断には、イモがどうのではなくて、法治国家の根本をゆるがす危険がひそんでいることに注目していただきたいとおもいます。
※1 大阪府の発表をみて、ますますその感を強くしました。http://www.pref.osaka.jp/fumin/html/20156.html
裁決が今年の3月11日で、4月10日に執行停止申立で、10月16日に代執行。わたしは裁決は2007年の3月の書きまちがいかと思いました。これでは行政訴訟の制度そのものを無視している、おかみのすることには逆らうな、といっているのとおなじ、ではないでしょうか。 ※2 一審却下の後ですから、大阪高裁の30日の決定も、抗告人にきびしい内容になったかもしれません。もっとも、高裁が異なる判断をだすことはよくあります（府知事は地裁の判決に不満がないのに控訴する人なんだからよくわかっているでしょう）。特にこの件は大阪府によると一審決定だけで6ヶ月近くかかっているので、かなりな難事件です。ちなみに上記のわたしの担当事件は、国（入管）からの即時抗告でひっくりかえされてしまいました（ためいき）。 ※3 このエントリーをお読みいただければわかるとおり、誠実に交渉しただの、2週間はやくイモホリしろだのという橋下知事の発言は、およそ見当ちがいなのです。ただ、これが争点そらしのための悪質な煽りなのか、素でいっているのかはわかりません。というのも、わたしは法律に関する彼の発言をきいていると、しばしばこの人のアタマのなかはどうかしているのかと思うことがあるので。 |