バリアフリー化されていないことを理由に、下市町立下市中への入学が認められなかった同町在住の谷口明花さん(12)。奈良地裁が町教委に入学させるよう仮の義務づけを決定したことに、「たくさんの人に応援してもらった結果でうれしい」と晴れ晴れとした様子で話した。【高瀬浩平、栗栖健、石田奈津子、大森治幸】
明花さんは4月以降、自宅で県立明日香養護学校(明日香村)の教員の訪問指導を受けている。中学から始まる英語の授業を心待ちにしてきた。宿題の他に「白雪姫」のDVDで英会話を聴いて、単語を少しずつ紙に書き取る自習も続けた。
中学に通えないまま過ぎた3カ月。この間努力を続けた明花さんは「私もこれだけ頑張ったということを友達に話したい」と喜ぶ。母美保さん(45)は「1学期中に中学校に通わせたい。ほっとしているが、しっかりしないといけない」と気を引き締めた。
決定で、一谷好文裁判長は「下市中の普通学級で他の生徒と授業を受け、学校生活を送ることで、障害を克服し、心身ともに成長するための時間が刻々と失われている」と言及した。父正昭さん(51)は「決定に感謝している。普通に、当たり前の状況で、学校生活を送れたらいいと思う」と話した。
明花さんが下市中で安全に学校生活を送るためには、介助職員の配置やバリアフリー化などの対策が必要だ。1年生の教室は4階にあり、階段の上り下りが多くなる。財政難の同町にとっては、教員の加配やエレベーター設置工事などの財源が課題となる。
決定は、1年生の教室の変更が不可能とは認めがたい▽可能な範囲でスロープを設置する▽特別支援学級を設置し、教員を加配する--など、工夫や改善の余地があるとしている。
今年5月、解決策を考えようと明花さんと両親に会った奈良市立京西中の元校長、胎中(たいなか)廉啓さん(59)は「別の中学では、生徒と教師が協力して、木材を切って、手作りのスロープを作ったこともある。一度に100%のバリアフリー化は難しくても、少しずつ工夫をすればいい」と話した。
同町の中本康行・副町長は「町の事情もあるのだが残念。決定の内容を見て協議し、従うかどうか、速やかに方向を出さなければならない」と述べた。冨岡将人・県教育長は「重く受け止め、従うべきだと思う。子供のことを第一に考え、県教委としてできることを精いっぱいするつもりだ」と話した。
毎日新聞 2009年6月27日 地方版