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社説:核持ち込み密約 詭弁はもう通用しない

 1960年の日米安全保障条約改定時の核持ち込み密約について、村田良平・元外務事務次官が毎日新聞の取材に対しその存在を認めた。密約が外務省内で文書によって引き継がれてきたことを事務次官経験者が証言したのは初めてだ。

 外交を預かる外務省の事務方トップが自らの体験を踏まえて証言したことは重い意味を持つ。政府は速やかに密約の存在を認め、事実関係を国民に明らかにすべきである。

 村田氏が認めた密約は、安保条約改定に際し60年1月に東京で行われた当時の藤山愛一郎外相とマッカーサー駐日大使の会談記録などだ。日米両政府は在日米軍基地の運用に関し米軍が装備の重要な変更をする場合は事前協議を行うことにしていたが、核兵器搭載の米艦船の寄港や領海通過、米軍機の飛来については事前協議の対象外とすることを確認したものだ。

 これについて村田氏は87年7月の次官就任時に前任次官から文書で引き継ぎを受け、2年間の在任中に当時の外相に説明し後任次官にも引き継いだという。外務省が組織的に密約を管理していたことを意味する重大な証言である。

 核持ち込み密約は81年に毎日新聞が報じたライシャワー元駐日大使証言で発覚し、その後米側の公文書でも裏付けられている。しかし、日本政府は一貫して密約を認めていない。今回も「密約は存在しない」「事前協議がない以上、核持ち込みはなかったということに全く疑いの余地を持っていない」(河村建夫官房長官)と否定している。

 それにしても不思議なのは、内外の証言や公文書でこれだけ明らかになっている事実をいまもって日本政府が認めないことである。外交や安全保障政策では国益や相手国への配慮から、すべてをオープンにできない場合があることは理解できる。しかし、核持ち込みに関しては安保条約改定から半世紀近く、ライシャワー証言からも30年近くがたっている。米側がすでに公表し、日本政府の元高官も証言していることをなぜ認められないのか理解に苦しむ。

 日米間ではこのほか沖縄返還にかかわる密約の存在もわかっている。民主党の岡田克也幹事長は「沖縄密約に限らず、政権交代をしたら情報公開を徹底する」と明言している。日本の安全保障政策の根幹にかかわる問題をいつまでも隠し続けているのは外交に対する国民の信頼を得るうえで大きなマイナスである。

 「事前協議がない以上、核持ち込みはなかった」という詭弁(きべん)はもう通用しないことを、安保条約改定後ほぼ一貫して政権を担ってきた自民党も深く認識すべきである。

毎日新聞 2009年6月30日 東京朝刊

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