きょうの社説 2009年7月2日

◎北陸の路線価下落 「新幹線効果」の重みさらに
 予想されていたとはいえ、やはり現実は厳しかった。石川県の路線価は、「新幹線効果 」で上向きかけていたJR金沢駅周辺を含めて上昇地点が70から1に激減し、2年ぶり下落に転じた。昨年秋以降の世界同時不況に、北陸はもとより日本全体がのみ込まれた印象である。

 これだけ景気が悪ければ、地価が下がるのもやむを得ないのだろうが、1992年以降 、石川県で路線価が前年比プラスとなったのは昨年だけである。長期的な土地の資産デフレに歯止めがかからなかったショックは大きい。全国でも持ち家比率が高い地域で、資産デフレがこうも長引けば、地方経済に活力が生まれるはずがない。

 日銀金沢支店が発表した6月の「北陸短観」を見ると、企業の景況感については、改善 の兆しが鮮明になってきた。路線価は今年1月1日時点の調査だから、地価の下落は既に底を打った可能性もある。地価が持ち直すなら、そのリード役は、石川県では金沢駅周辺と市内中心部、富山県でも富山駅周辺や富山市中心部にならざるを得ないだろう。

 地価の下落で、新幹線の重みはさらに増した感がある。都市の魅力に磨きをかける地道 な努力を続け、新幹線開業の追い風を最大限に生かす知恵が求められる。

 路線価のうち、石川県の最高路線価は、金沢市香林坊1丁目の百万石通り(1平方メー トルあたり52万円)、富山県は富山市桜町1丁目の駅前広場通り(同46万円)となり、47都道府県庁所在地の最高路線価との比較で、金沢は23位、富山は24位にランクされた。

 首都や政令都市を除く地方都市を見ると、金沢より上位に長崎市(16位)、鹿児島市 (17位)、松山市(18位)、那覇市、大分市(ともに19位)、奈良市(22位)などがある。最高路線価を都市の魅力を測るモノサシの一つと考えるなら、まだまだ上には上がいる。

 石川、富山県ともに、地価の地域格差の拡大傾向は深刻な問題だ。地域ごとの自助努力 も当然必要だが、やはり県都の一等地が上昇し周囲に拡大していかないと、全体への波及は難しい。けん引役の責務は、一層重くなるだろう。

◎在留資格見直し 海外の頭脳獲得の一歩に
 高度な専門的能力を持つ外国人の国内での就労を促進するため、研究実績や職歴で一定 水準を上回れば、在留期間の延長などを認める新たな制度が導入される方向となった。国際的な人材獲得競争が激化する中で、国内で世界の頭脳がしのぎを削る環境を整えることが、技術立国日本の大きな課題であろう。新制度導入を海外の有能な人材獲得の一歩にしてほしい。

 現行の在留資格は、投資や法律、技術、芸術、医療など27種類に類型化され、与えら れた資格から逸脱する活動は認められていない。外交や公用、永住者以外の在留期間は最長3年であり、欧米など他の先進国と比べて必ずしも十分でないとの指摘もある。

 先の文部科学省の調査で、日本の大学院博士課程の延べ志願者数が、国内での就職難も 背景に、2004年度から5年連続で入学定員を下回ったことが分かった。

 こうしたことから日本の若手研究者らの間に、母国の大学院進学より、研究体制が充実 している米国の機関や企業をめざす傾向が顕著になれば、国境を越えた人材が交流する時代の、質の高い「仕事場」としての日本社会の吸引力が減退することは否めない。

 そんな中で、外国人にとっても魅力的な職場であるための下支えとして、高度な専門能 力が評価されることで、比較的長期に仕事ができる在留資格の取得も可能となる制度的充実は、時代の要請であろう。

 今回は、資格や職歴、研究実績などを点数評価し、一定水準のポイントに達すれば、優 遇措置として在留期間の延長や、再入国手続きの簡素化、永住権を得る場合に必要な10年の在留期間の短縮などが、法務省の懇談会で検討される見通しである。

 学術研究やビジネスにとどまらず、たとえば芸術家にインスピレーションを与える「創 造都市」としての金沢を考えた場合、腰を据えて制作に励める在留期間を与えられることで、世界各国の芸術家が寄り集う「場」の魅力を発信する新たな性格を打ち出すこともできるだろう。