「児童ポルノ」の範囲は、広汎であり、本来、児童の人権保護のためには規制する必要がないものも規制対象となりうるうえに、規制の範囲が曖昧かつ不明確である。しかも、「文学的・芸術的・政治的・科学的価値」等を有する作品を除外する条項もなく、表現の自由に対する配慮も存在しない。 単純所持の犯罪化は、「児童ポルノ」について、覚せい剤等と同様の禁制品にするということを意味する。覚せい剤とは違い、「児童ポルノ」の定義は、主観的な要件を含むために曖昧である上、また、たんに画像なり写真なりを所持している者が被写体の年齢について判断することは困難である。「児童ポルノ」であるか否かの判断基準は、不明確であり、このように不明確な禁制品を創設することは、警察による恣意的な捜査、摘発を可能にする。たとえば、過去の市販されていた写真集の所持等も摘発の口実となりうる。 第二に、単純所持規制は、たんに取り締まりの便宜という観点から、全市民を潜在的な犯罪者にしかねない危険性を孕んでいる。たとえば、メールに添付されて画像データが送りつけられた場合にも所持(保管)は成立するし(消去したつもりでも、自動的にバックアップされる可能性もある)、インターネットサーフィン中に、偶然に児童ポルノ画像に辿り着いた場合でも、キャッシュという形でハードディスク内に保存され、「所持(保管)」してしまう危険性もある。 第三に、「所持(保管)」概念も日常用語とは違い、「事実上自己の支配下におくこと(自己の実力範囲内におくこと)」を広く意味する。児童ポルノを直接に管理していなくても、家族や友人等が児童ポルノを「所持(保管)」している場合に、「共同所持」を理由に強制捜査を行うことも可能である。
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