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論 点 「児童ポルノ規制の範囲とは」 2009年版
世界に恥ずべき日本の児童ポルノ文化――倫理なくして何が表現の自由か
[児童ポルノについての基礎知識] >>>

もりやま・まゆみ
森山真弓 (衆議院議員)
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▼対論あり

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日本は児童ポルノの一大輸出国
 わが国では、売春防止法が一九五六年(昭和三一年)に制定されました。しかしこの時の問題意識は、貧しくて生活に窮し、手に職もなく生きていくすべのない女性たちの生活の問題あるいは女性の地位の低さとしてとらえられ、売春行為を罰するというよりは、彼女らのかかえる問題を解決し、更生してもらうことが重要と考えられていました。そのようなことから単純な売買春行為はそれだけでは罰する必要はないとされたのでした。
 半世紀後の今日、アジアにおいて児童買春、児童ポルノ、商業的性的目的での人身売買の犠牲になっている児童の数は、一〇〇万人から一五〇万人といわれています。八〇年代になってから、欧米諸国やオーストラリアそして日本からの児童買春を目的とするツアーが急増し、児童買春が深刻な社会問題として世論の関心を集めるようになりました。
 こうした状況下で、欧米諸国が児童ポルノの規制を強める法改正を次々に進めるなか、立ち後れた日本は世界の児童ポルノ製造流通基地のようになってしまい、ヨーロッパ諸国で流通している児童ポルノの約八割は日本製だといわれて、国際社会の非難の的になったのです。
 その後、アジアの多くの国でも法改正が進み、児童買春を法律で禁止する国が多くなりましたが、それにもかかわらず、現実には児童買春はいっこうに減少しませんでした。これによって莫大な利益が生じることから、国際的な組織を含めてさまざまな集団が、「需要」と「供給」をつなぐ仲介業務をしているのです。これらは組織化されたものばかりではなく、個人やごく規模の小さい集団も数多く存在します。また、家庭用ビデオカメラが広く普及するにしたがい、アマチュアによる児童ポルノの製造も増加の傾向にあります。


コンビニでポルノが手に入るという異常さ
 このような風潮を憂い、九六年、スウェーデンのストックホルムで、「児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」が開催されました。一二二カ国政府、二〇国際機関、各国からの多数のNGO関係者など一〇〇〇人以上が参加しました。日本政府代表団もこれに出席しましたが、この会議で、各国から、国レベル、国際レベルでの積極的な取組みが報告され、とくに欧米諸国では法改正を行い、児童ポルノを成人ポルノと明確に区別して規制をし、また、児童買春についても積極的に取り組んでいることが次々と報告されて、無策の日本に対する批判と早急な対応を求める声が強く出されました。
 日本代表団は、児童の性の商業的搾取という問題に対する日本の社会全体の認識、対応の遅れを痛感したのでした。
 八九年に採択された「児童の権利条約」は、わずかの間に批准する国が急速に増え、日本も、九四年四月に批准しました。その三四条はあらゆる形態の性的搾取、性的虐待から児童を守るものであり、この三四条の内容を具体化する「選択議定書」も二〇〇〇年に採択されました。
 しかし現実には、日本では町の書店やコンビニエンスストアでも、露骨なポルノの写真や絵ののっている雑誌などが、子どもたちも簡単に手にとることのできる場所に当たり前のように並べてあります。なかには子どもを使ったポルノも少なくなく、普通の少女雑誌のような表紙でも、中をあけてみるとひどいというものもあります。一般市民がふだん出入りする店に、食べ物や文房具といっしょにこういうものを平然と並べて売っているという国は他に例がなく、外国人は皆驚き、眉をひそめます。
 表現・出版の自由を尊重するべきことはいうまでもありませんが、だからといって子どもの人権をまったく無視してもいいということはありません。表現の自由といえども公共の福祉によって制限されるということは最高裁の判決によって確認されています。自由のはき違えによる野放図な行き過ぎが、社会の節度を崩しているといっても過言ではないでしょう。
 日本は、伝統的に性倫理に厳格さを欠く傾向があるといわれていますが、娘のような子どもたちを弄ぶ買春行為をする大人や、売れればよいとして、利益のために他をかえりみず、子どもを食い物にして傷つける大人たちの罪の深さは無視できません。


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論 点 「児童ポルノ規制の範囲とは」 2009年版

対論!もう1つの主張
現行児童ポルノ法では不十分か? 安易な規制強化の持つ危険性
山口貴士(弁護士)


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もりやま・まゆみ
森山真弓

1927年東京都生まれ。東京大学法学部卒。労働省婦人少年局長を経て、80年参院選に初当選。外務政務次官、内閣官房長官(女性初)、文部大臣などを歴任。96年に衆院選に初当選、2001年小泉内閣で法務大臣を務める。07年より白鴎大学学長。08年に自民党法務部会児童ポルノ禁止法見直しに関する小委員会委員長として、児童ポルノ法の改正に積極的に取り組む。著書に『よくわかる改正児童買春・児童ポルノ禁止法』(共著)、『法務大臣の八八〇日』『春夏秋冬』『この日この時』『非常識からの出発』ほか。



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