第90回全国高校野球選手権大会第7日は8日、甲子園球場で1、2回戦各2試合を行い、聖光学院(福島)市岐阜商(岐阜)が3回戦へ進んだ。仙台育英(宮城)福井商(福井)は2回戦へ進出。
香川県代表で2年ぶり3度目出場の香川西は市岐阜商に同点の六回、先発高橋直が勝ち越しの2点本塁打を浴び、反撃も及ばず3―4で惜敗、大会2勝目を逃した。市岐阜商は5年ぶり4度目の甲子園で初得点、初勝利。
4季連続出場の聖光学院は一回に4点を奪って主導権を握り、初出場の加古川北(西兵庫)を9―2で下した。
仙台育英は毎回安打の13安打で、4―1と菰野(三重)に快勝して3年連続の初戦突破。
4年連続出場の福井商は終盤に酒田南(山形)を突き放し、6―1で勝った。
▽2回戦(第4試合)
市岐阜商(岐 阜)
000202000―4
001011000―3
香川西(香 川)
▽本塁打 西田1号(2)(高橋直)
▽二塁打 高井、横山、斎藤、谷、臼井▽残塁 岐7香8▽併殺 岐0香0
▽試合時間 2時間
【評】投打に互角の攻防。香川西は先制、同点直後の失点などで流れをつかみきれず、接戦を落とした。
香川西は三回一死一塁から、矢野が一走横山をバントで送り、斎藤の右前適時打で先制した。だが、四回の守備で右腕高橋直が踏ん張りきれず、2安打などで2失点。五回に横山の左中間二塁打、矢野の中前適時打で追いついた後の六回には、左翼越えに2点本塁打を許した。
攻撃は詰めを欠いた。六回に松本の左前打、谷の左翼線適時二塁打で1点差にした後の一死一、三塁を逸機。七回は遊撃内野安打で出た横山が敵失、送りバントで三進。2長短打の斎藤が意表を突くスクイズを試みたが、走者のスタートが遅れて失敗。逆転ムードに水を差した。
七回からは左腕芳山、小林が計2安打無失点と力投。奮起を託された打線だったが、相手2番手右腕の荒れ球に手を焼き、凡打に終わった。
選手は平常心で戦う
香川西・岩上昌由監督の話 選手は平常心で戦った。勝敗のポイントは多々あるが、七回のスクイズ失敗は大きかった。迷わずサインを出したが、今思えば強気に打たせてもよかったかも…。今回の敗戦が次の学年の糧になるはず。
勝てた試合だった
香川西・近江玄池主将の話 正直、勝てた試合だった。ミスが少しあったが、全員が力を出し切れたと思う。三塁ランナーコーチとしても判断よくできた。今回は負けたけど、後輩たちがさらに上に行くと信じている。
直曲球とも今ひとつ
香川西・芳山投手(7回からリリーフし、無失点)直曲球とも調子が今ひとつだったが、バックの守りで何とか切り抜けられた。経験を生かして来年も甲子園に来たい。
自分の投球ができた
香川西・小林投手(9回からリリーフし、無失点)緊張もなく自分のピッチングができた。甲子園のマウンドは今まで野球をやっていて一番のマウンドだった。
選手はよく頑張った
市岐阜商・秋田和哉監督の話 初勝利に関係者も喜んでいると思う。先制できなかったり、采配ミスもあったが、選手はよく頑張った。吉村の攻守にわたる活躍が大きい。スクイズの場面は同点OKだったがバッテリーが落ち着いていた。
初勝利でき最高
市岐阜商・吉村政俊主将の話 緊張していたが笑顔を貫こうとチームで決めていた。何が何でも勝ちたいと集中できたのもよかった。初勝利でき最高の気分。高校のために一回でも多く校歌を歌いたいし、この仲間でまだまだプレーしたい。
低めを意識しすぎた 背番号「1」高橋直
「ボール先行。真っすぐの制球が悪く、走者を出し過ぎた。いいところ? ありません」。香川西の背番号「1」高橋直は、自らの114球を力なく振り返った。
一回は一死一、三塁のピンチを三振と捕ゴロで切り抜け、二、三回は三者凡退。直後の先制点で勢いに乗ったかに見えたが、四回は「抑えようと低めを意識し過ぎた。踏ん張りきれなかった」。左前打と四球で一死一、二塁とし、中前適時打、中犠飛で2失点。どちらも置きにいった甘い直球を狙い打たれた。
追い上げた直後の六回は一死二塁から7番打者に初球の高め真っすぐを左翼スタンドに。6回6安打4失点は無念が残る数字だが、2年生右腕は「来年は同じことを繰り返さない。涙は喜びのために取っておく」。甲子園のマウンドに戻ってくることを力強く誓った。
采配はいまいち
殊勲打は劇的に生まれた。2―2の六回一死二塁。市岐阜商の秋田監督が出したサイン通り、西田が初球のカーブを強振。高々と舞い上がった打球は浜風に乗って左翼フェンスを越えた。「うれしいというかびっくり」と「通算本塁打は6本ぐらい」という7番打者は目尻を下げた。
市岐阜商にとっては“4度目の正直”だった。過去3度の夏の甲子園ではいずれも1点も奪えず初戦で敗退。初得点、そして初勝利をしるし、秋田監督は「采配(さいはい)はいまいちだったけど、選手たちが補ってくれた」と教え子たちをたたえた。
市岐阜商はいま、学校法人立命館(京都市)から移管提案を受け、存廃問題で揺れている。西田は「全員が母校のためにという気持ちでやっていた」。甲子園に校歌を響かせたい。その思いでたぐり寄せた1勝だった。
大車輪の活躍
市岐阜商は主将の吉村が大車輪の活躍だった。四回には同点の中前適時打を放ち、八回には中堅からマウンドへ。2回を0点に抑えた。
過去3度の出場は、すべて無得点で敗れていただけに「市岐商の初得点、初めての1勝だからすごくうれしい」と顔をくしゃくしゃにして喜んだ。九回にはバックの好守に続けて助けられ「みんなの勝ちたいという思いが伝わってきた。最後は気持ちで投げた」と興奮冷めやらぬ様子だった。
スクイズ失敗 流れ失う
試合終了後の報道陣の質問は、七回のスクイズ失敗に集中した。「結果論だが、確かに、あの場面は斎藤に打たせてもよかった。自分の責任」と口を真一文字に結ぶ岩上監督。初出場の5年前、大敗の主因に挙げたのもスクイズ失敗。因縁めいた敗戦に「強気が足りなかったか…」と上気した顔をわずかに曇らせた。
同点、負け越し、追い上げ。この流れで迎えた七回は逆転ムードが漂っていた。先頭横山が内野安打と悪送球で二進し、矢野の送りバントで一死三塁。絶好の得点機で続いた斎藤は前2打席で2長短打。「相手の球がよく見えていた。打てる気がしていた」。だが、カウント1―1からの3球目、岩上監督が送ったサインはスクイズだった。
「問題なし。やるかもと監督に言われていた」と斎藤。落ち着いてバットを合わせ、投前へ転がした。だが、三走横山は「サインを見落としていた。バントの構えを見てあわてて走った」。
チーム一の俊足を飛ばしたが、一瞬の出遅れは取り戻せず、痛恨の本塁タッチアウト。「雰囲気にのまれ、打者しか見えていなかった」と横山。流れを手放すワンプレーを心底悔しがった。
3投手の継投、代打策など文字通りの「全員野球」で挑んだ3度目の夏は1点差の惜敗で幕を閉じ、甲子園2勝目は持ち越しとなった。「あの失敗が分岐点だったとまでは言えない。ほかにも多くのミスがあり、詰めの甘さがあった」と岩上監督。反省点を列挙したが、最後は「この負けを生かすか殺すか。次の代にかかっている」。今夏を経験した1、2年生7選手に未来を託した。
|