イラク駐留米軍の戦闘部隊が6月末の期限を待たずに都市部からの撤退を完了した。1月に発効した米イラク地位協定に基づく措置で、2011年末までの完全撤退に向けた第一弾である。イラクは治安維持を含めた「主権回復」に向け、自立への一歩を踏み出した。
03年のイラク戦争開戦から6年3カ月が過ぎた。イラクの民間人死者は10万人以上と推計され、駐留米軍兵士の死者も4300人を超えた。
07年の増派で一時は17万人規模に膨れ上がっていた米軍だが、現在の駐留規模は約13万人。都市部からの撤退後は、郊外の基地で駐留を継続し、イラク軍や警察など治安部隊の訓練や助言を主任務にするという。
オバマ米大統領の計画では、10年8月末までに戦闘部隊を全土から撤収。非戦闘任務に従事する3万5千―5万人の部隊も11年末には全面撤退する。これによりオバマ政権は、国際テロ組織アルカイダとの戦いの軸足をアフガニスタンに移す。
イラクのマリキ首相は、米軍撤退について「われわれが自ら治安維持ができるとの世界へのメッセージだ」と述べた。今回の撤退は「自立した主権国家」を内外に印象づけたいマリキ政権と、イラク戦略の「成功」をアピールしたいオバマ政権の思惑が一致したともいえよう。
一時は「内戦状態」とされていたイラクの治安情勢がここ1、2年大きく改善したのは確かだ。しかし、米軍撤退を控えた先月にはバグダッドなどで大規模テロが相次ぎ、250人以上が死亡した。イラク部隊の能力が不十分として治安悪化を懸念する声も上がっている。
イラクの宗派、民族間対立の火種は消えていない。治安が再び不安定になれば、米軍撤退履行の行方を左右しかねず、オバマ政権のアフガン戦略にも影響を及ぼしかねまい。治安維持がイラク自立の前提であることは言うまでもない。
先月来日したイラクのジバリ外相は中曽根弘文外相と会談、石油などエネルギー分野での協力強化と、官民によるイラク復興支援推進で合意した。治安面に不安は残るが、日本も国際貢献に踏み出す必要があろう。
イラクにとって大きな節目となりそうなのが来年1月に予定される連邦議会選挙だ。石油収入の分配方法を定める石油法審議など、将来の国家像を決定付ける課題も山積している。権力と富の公平な分配で対立の芽を摘み、国家自立へ歩み出せるのか、これからが正念場だ。
国立教育政策研究所のいじめ追跡調査で、8割を超す小中学生が被害、加害の両方を経験していることが分かった。
2004年から3年間、首都圏のある市で小中学生約4800人を調査した。それによると中3の11月時点で80・3%が仲間外れや無視、陰口の被害を受けていた。ところが、加害経験の質問でも経験なしは少数にとどまり、81・3%がいじめをしていたとの結果になった。
小学生についても、6年の11月時点で86・9%が被害を受ける一方、加害経験のある子が84・0%に上った。
いじめについては、同じ子どもが被害者にも加害者にもなり得ると言われてきた。数字によってこれが裏付けられたといえる。研究所の分析通り、被害者と加害者は常に入れ替わっているだろう。いじめる側といじめられる側を固定的にとらえる考え方は改めねばなるまい。
文部科学省はこの数年、いじめを行う子に対して厳しく対処する「ゼロ・トレランス(非寛容)」という米国流の指導法を全国の学校に広めてきた。学校での指導法については再考してみる必要があろう。
とはいえ、今回はまだ、いじめ問題の深い闇の一端が垣間見えたにすぎない。
昨年秋、文科省が公表した小中高校の問題行動調査では2007年度のいじめ認知件数は10万件を超えた。だが、深刻さが言われるネットいじめは6%にとどまり、疑問の声が出た。
いじめの定義自体がたびたび変えられ、調査結果が大きく変動してきた。大人たちも悩みを抱えている。
知らなければ有効な対処策は打てない。国、都道府県、市区町村と各レベルで、いじめの実態をつかむ努力をなお続けていかなければならない。
(2009年7月1日掲載)