きょうの社説 2009年7月1日

◎過去最悪の求人倍率 雇用対策は今こそ正念場
 景気動向で明るい兆しが見えてきたなかで、5月の有効求人倍率が0・44倍と過去最 低を記録し、失業率も5・2%に悪化したのは、企業の生産が上向いても雇用の改善に結びつくほどの力はなく、景気回復の兆候は極めて弱いことを示している。

 厚生労働省は雇用情勢判断を5カ月ぶりに下方修正し、最も厳しい表現の「さらに厳し さを増している」とした。生産や消費などの指標で上方修正の動きが広がっているのとは対照的で、雇用悪化が長引けば景気回復の足を引っ張り続ける要因になりかねない。政府や自治体の雇用対策が問われるのはむしろこれからである。

 有効求人倍率は石川県でも0・50倍と過去最低となった。富山県は前月より0・01 %持ち直して0・47倍になったものの、働く場が求職者の半分にも満たないという厳しい状況に変わりはない。求人倍率がこれだけ低ければ離職者の再就職は簡単ではないだろう。

 製造業は急ピッチで生産調整を進め、最悪期を脱したとの見方が広がってきたが、それ は非正規を中心に大規模な人員削減を同時に進めたからであり、その副作用は雇用悪化という形で鮮明に表れ始めている。企業が採用に慎重なのは生産水準がピーク時に比べれば依然低調で、景気の先行きが見通せないためであろう。

 休業などで従業員の雇用維持に努めた企業に助成金を支払う雇用調整助成金の支給対象 は全国で約240万人に達し、石川では約4万5千人、富山県では約4万人に上っている。失業者の増加に歯止めをかける一定の役割を果たしているとはいえ、助成金を頼みの綱にして雇用を守っている企業も多く、景気回復が遅れれば雇用調整圧力がさらに強まり、防波堤の役目を果たせなくなる恐れがある。

 石川、富山県では雇用創出事業や就農支援、福祉・介護人材の養成など幅広い対策を進 めている。高失業率の背景には雇用のミスマッチもあり、現実に即した職業訓練が重要となる。県や各自治体、労働局は、雇用の最悪期はこれから始まるという危機感をもち、民間が回復軌道に乗るまでの下支えを確実に進めてもらいたい。

◎イラク自立へ前進 「富」の分配が大きな鍵
 イラクの都市部から駐留米軍の戦闘部隊が撤退し、イラクの完全な主権回復に向けて前 進した。一時、内戦状態と言われるほど悪化した治安情勢は大幅に改善され、日本企業を含む外資を対象に巨大油田開発の入札も行われるようになった。ただ、米軍撤退後の治安にはなお不安が残り、懸案である宗派・民族間の融和も進んでいない。イラク政府の治安維持能力とともに、原油収入という「富」の分配方法が、自立した主権国家づくりの成否の鍵を握っている。

 イラクの国家予算の90%以上は原油収入で賄われており、油田開発への期待は大きい 。しかし、国民生活を豊かにする富の源泉が宗派・民族対立の火種になっているところにイラクの苦悩がある。イラクの原油確認埋蔵量は世界3位とされるが、油田はイスラム教シーア派が支配する南部と、クルド人の多い北部に集中しており、両勢力が石油権益確保にしのぎを削る一方、中西部のスンニ派が利益配分に不満と不安を募らせる状況が続いているのである。

 特に心配されるのは、シーア派のマリキ首相が率いる中央政府とクルド人自治政府の対 立である。石油収入を「イラク全体の富」とする中央政府に対して、自治政府側は「自治区の収益」と主張し、深い溝がある。

 クルド人自治区の油田では、財政資金確保のため6月から待望の原油輸出が始まった。 油田からの収益は中央政府に帰属し、自治政府は中央政府の予算から17%の配分を受けることで、とりあえず妥協した結果であり、根本的な対立が解消されたわけではない。

 中央政府による今回の外資向け油田開発入札は、自治区内の油田も対象になっているが 、入札に関与できないことに自治政府側は強く反発している。

 石油収入の分配の仕方を定めた石油法案は、どうにか議会提出にこぎつけたものの、成 立の見通しは立っていない。富の分配で公平性を欠き不満が高まれば、統一した主権国家づくりは難しくなる。マリキ政権の統治能力が試される正念場はこれからである。