第25章 物 怪 自 縛


 第883号     1995年10月3日

東京地裁でクロウ夫人が日顕シアトル買春事件を証言した
証言が売春婦におよぶと傍聴席の坊主らはみなうつむいた

 昨夜来の雨もやみ、雲間から太陽の光が射しはじめた。十月二日午後一時三十分、東京地方裁判所民事十二部五〇六号法廷、外の天候の変化など無縁な張りつめた時間が経過している。
 証人席には、紫がかったピンクのシックなスーツの装いに身を包み、パールのネックレスをし、黒のハンドバックを携え、黒い靴をはいた一人の婦人が落ち着いた雰囲気で座っている。
 黒の法服をまとった三人の裁判官が入廷し、一段高い裁判席に座った。中央が篠原勝美裁判長裁判官、右陪席は生島弘康裁判官、左陪席は岡崎克彦裁判官。
 傍聴人席一列目には、日顕宗渉外部長・秋元広学、教学部長・大村寿顕、庶務部長・早瀬義寛、海外部長・尾林広徳などの顔が並ぶ。買春の当事者である日顕の息子・大修寺住職の阿部信彰は二列目に座っている。
 その他、仲居・駒井専道、渉外部主任・梅屋誠岳、法忍寺住職・水谷慈浄、アメリカの妙信寺住職・高橋慈豊などが確認された。日顕宗側の総勢は、約十五名前後。
 創価学会側関係者も、柏原ヤス参議会副議長をはじめとする十数名が傍聴していた。
 書証提出手続きの後、裁判長が人定質問。つづいてクロウ夫人が、
 「良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」
 と、しっかりした声で宣誓をおこなった。この間、法廷内はシワブキひとつ聞こえない緊張した雰囲気。
 クロウ夫人の証言は、被告(創価学会)代理人・宮原守男弁護士の質問に答えるかたちで進められた。
 まずは、クロウ夫人の経歴、信仰歴が語られた。そして、日顕シアトル買春事件の核心に向かって、証言が進められていく。
 クロウ夫人の証言のあらましは、つぎのようなものであった。

 一九六二年十二月二十一日、長男出産。九日後の十二月三十日に夫が死亡。年が明けて一九六三年の一月三日に夫の葬儀を終え、その直後の一月十五日にシアトル支部が結成され支部長となった。三月におこなわれる第一回海外出張御授戒を大成功させようと必死の思いだった。
 三月十九日、カワダ・ケイコ宅の御授戒場に日顕を迎え、法衣の着替え。子供部屋で着替えたが、カーテンに隙間があったのでシーツで押さえていたら日顕が、
 「まるでストリップ劇場みたいですね」
 と、まったく場違いな声をかけてきた。さらにあきれたことに、
 「アメリカでは、ああいうエロ写真は簡単に手に入るんですってね」
 と、まるで低俗な店で働く女性に言うような言い方で話しかけた。まったくバカにされたような感じがした。
 御授戒を八時〜九時ごろ終え、軽食、懇談の後、ホテルへ十時ごろ送った。カワダ宅にもどって懇談したり、シカゴ行きの準備をしていたら、午前二時ごろシアトル警察の警察官より電話があった。
 あわてて警察官が指定した場所に、自分の車(一九六〇年型シボレー)に乗って向かった。七番街から左折し、パイク通りに入ったすぐ右側にパトカーが停まっていた。二人の警察官がおり、日顕は一人の警察官の胸によりかかるようにして泣いていた。
 日顕はクロウ夫人に、
 「道に迷った……」
 と話したが、あとは声にならなかった。
 一人の警察官が、私(クロウ夫人)に説明したところによると、
 「この男は、スカートをめくる仕草をしながらカメラのシャッターを切るジェスチャーをし、札束を見せつけ、ヌード写真を撮らせてくれと売春婦に頼んだ」
 また、警察官が言うには、日顕は、
 「二人の売春婦と部屋にいた」
 とも語っていた。
 私はその話を聞いて、このままでは予定されている明日のシカゴ行きがダメになると思い、日顕の無実を訴えた。日顕が高い位の僧侶で、宗教目的でシアトルを訪れたもので、決してそのような行為をおこなう人ではないと話した。
 私の懸命な説得により、結局、日顕は「リリース」(釈放)してもよいということになった。日顕の代わりに私が警察署に行くことになり、とりあえず日顕をホテルにもどし、二度と外出しないよう念を押した。
 私がシアトル警察についたのは、深夜の三時であった。私は、英語のできない日顕をバカにしている、売春婦に会わせろと、現場でも要求したが、訪れた警察署でも訴えた。警察は、
 「売春婦には会えない」
 と言った。それに対し私は、
 「ホラ、ごらんなさい」
 と言って、さらに必死に抗議をした。すると、それまで物静かだったもう一人の警察官が、
 「あの男は、もう一人の売春婦と性行為が終わっているんだ。それをめぐるトラブルだ」
 と私に説明した。

 この証言につづけて、クロウ夫人はシアトル警察で、出頭したことを認める書面、現場での説明と警察署での説明が同じであることを認める書面、日顕について責任をもつ旨の書面、以上三つの書面に署名をおこなったことを証言した。
 すべての署名を終えたところで、二人の警察官の上司が、
 「あなたは強い女性だ。こんな時間まで本当にご苦労さま」
 と、クロウ夫人にねぎらいの声をかけたということである。すべてが終わったのは、午前四時前。クロウ夫人は一睡もせず、日顕のシカゴ行きの準備をした。
 クロウ夫人は、これらの証言を落ち着いた雰囲気で切々と語った。
 クロウ夫人の証言が売春婦に及ぶと、日顕宗の坊主らはみな下を向き、悄然としていた。阿部信彰は、父親である日顕の破廉恥な行為をどのような思いで聞いたのだろう。日顕宗の坊主らは、一様に顔をこわばらせ、法廷を去っていった。
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