「オコゲ男子」

2009年7月 1日


めがね男子はファッションで眼鏡をかけている男子で、草食系男子は女子と積極的にセックスをしたがらない男子で、腐男子はノンケなのにホモのヤオイに萌える男子で、レズ男子は・・なんでしたっけ。
ここ数年で、男子の分類が進んできている印象があります。レズ男子を除いて、なんだかどれにもなれそう、と思う私ですが、私がゲイ男子である時点で、すべてに乗れなくなってしまいそうな、ノンケ男子の分類のような気もします。
いえ、ゲイ男子でも、眼鏡をたくさん持っていたり、あまり好きな男ともセックスをしたがらなかったり、BLが好きだったりする人はいるでしょう。私の職場のゲイ男子たちが、ほぼこれのどれかにあてはまります。その他の場所でもよく出会います。
先日は六十歳のゲイバーのマスターが、「ぼくなんか草食系男子の走りだったと思うわ」と宣言していました。それは美輪さまがヴィジュアル系の元祖と自称しているのと似た感じなのでしょうか。
新たに発見した形でラベリングしたのはノンケ女子の功績ですが、実は、化粧が好きだったりセックスが好きだったりする派手さを持たない、地味なゲイの先人たちの蒔いた種が、セクシュアリティの枠をこえて、芽を出しているのかもしれません。

最近まで片思いをしていたルパン(草食系)と食事を重ねるごとに、自分がルパンの友達以外のものになってきている気がしています。ルパンは同性の友達というか、女友達のような感覚を私に求めているように思いますが、それにしては私はツッコミを控えていて、それにストレスも感じていません。うんうん、とルパンの話にうなずきながら、なんにせよ、この子は可愛いねー、と話を聞いていないときの自分は近所のオバチャンか実家のオヤジと思いますが、時々、目の前で話すルパンを見ていてデジャブーにおそわれることが多くなってきました。

私はこの人だったことがある・・。

前世の話ではありません。昔の私が、今、目を細めて聞いている私のような女子を前にして話していたことがある、という意味です。そのルパンの立場になっていたことがあるような気がしたのです。
その女子は、今の私がルパンに抱いている気持ちと同じように、そこはかとない色気を当時の私に持っていてくれて、今の私がルパンに対してそうであるように、おおまかに私の言動そのものを肯定してくれていました。そこはかとなく、おおまかに、好意的です。
これは、ファン心理かしら、と思いました。もしくはグルーピー、追っかけ・・それでも非常に近いのですが、私は、オコゲ心理なんじゃないか、と思いました。
ゲイ男子と仲良くしたがる女たち。

先日、千鳥街(二丁目の中でも戦後の雰囲気を残しているディープな飲み屋街)で飲んでいたら、ゲイの女嫌いの話になりました。ケバさの少ないおすぎとピーコみたいな常連客が口をそろえて、「人生に女なんかいらないわよ、ねぇー」と言い始めて、その二人よりも少し若い、秋田犬みたいな顔をした坊主が、「それは違う。どういう女かによっては、いてもいい女もいる」と何様発言をしました。続けて坊主は、「茶屋君は女、好きだよね」と私に振りました。「ええ、まあ」と会話全体から逃げようとした私に地味おすピーが、「昔からオコゲってのはいてさぁ、でも絶対アイツら、そんなことは求めていない、って顔しながら、オカマにセックスを求めているでしょう、アタシわかってたもん」と自信たっぷりにいいました。「ぜったい無理だってのよ、ねぇー」とキラキラした目で私に同意を求めてきます。私はあいまいに笑いながら、そういう女子もいたような気がする、と過去をふりかえっていました。
先週ひさしぶりに会ったカラオケ友達のサチオちゃんは、自分の女嫌いについてカラオケボックスでこう語りました。
「女の子と仲良くなるじゃん、僕もキャーキャー言って会話が盛り上がるじゃん、それで僕ん家来る? ってなってその子が遊びにくるじゃん、するとセックスしたいって言い出すんだよね、僕なんかオネェ全開で喋ってるのにさ。もぉ、その展開が信じられないし気持ち悪いしで、そういうことが何度かあって、女の子を嫌いになっちゃった」

その話を聞きながら、去年はサチオちゃんに告ってふられたことを思い出しました。「お姉ちゃんとしか思えない」と言われたのでした。自分がサチオちゃんの知り合った女子のひとりだったような気がしてきます。そして今年のルパンとの展開にも酷似しています。
そうか、私はオコゲ女子ならぬ、オコゲ男子だったんだわ、と思いました。

男尊女卑なパワーゲームに疲れていて、けれど恋愛というのはそういうものだと、そのループから逃れられない女子が、ふと近所でゲイ男子に出会います。それがテレビで見るような化粧をしたオネエさんでなくて、物腰の柔らかい見た目は普通の男子だったとします。
彼はノンケ社会に遠慮して生きてきた分、人にやさしいかもしれません。親兄弟にセクシュアリティを言えなかった分、精神的に自立しているかもしれません。経済的にも自立している場合は、衣食住にもお金をかけることができているかもしれません。恋愛に関してはノンケ女子と似た立場にいるかもしれません。会話が成立します。そしてチンコがついています。
オコゲ女子にとって草食系ゲイ男子は、セックスが目的というより、結婚するならこんな男がいい、の代表的な記号になりやすいのではいかと推測します。

私がオコゲ男子だとすると、好きになったゲイ男子にそういうことを求めていたのでしょうか。サチオちゃんもルパンも、私の婚活だったのでしょうか。

そんなある日、職場のオーラちゃんが、平井堅と草野正宗(スピッツ、一人称はオレ)がハモって歌う中島みゆきの「わかれうた」のカヴァーを聞かせてくれました。男との関係に絶望した女の歌を、ゲイと草食系の(と思われる)二人の男が綺麗な声で淡々と歌い上げていました。なんとなく、オコゲには出来ない自己救済を、そこに見たような気がしました。

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茶屋ひろしのプロフィール

茶屋ひろしのプロフィール茶屋ひろしのプロフィール
1975年、大阪うまれ。京都の私大生をしていたころに、あたし小説家になるんだわ、と思い立ち、卒業後も京都でアルバイトしながら執筆を続けるが、その生活は鳴かず飛ばず。
このままじゃ将来が不安、手に職をつけなくちゃ、と夜の世界へ飛び込んだら、思いのほか楽しくて2年間酒びたりの生活を送ってしまう。ああ、もう書かない人になるのかしら、と最後の危惧を感じて突然上京を決意。東京に来て2年が経ち、少しずつ書く機会が出てきました。行く末はライターか小説家か、は保留。ゲイというよりオカマ。
二丁目で働いていて感じる違和感を言葉にしていきたいと思っています。


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