特別、解決方法が見つからぬまま数日が過ぎた。
敦の日記は、ごくごく普通のものであった。
今日は何を食べた。
そして寝たといった感じの、感想は一切入っていない既成事実のみを並べるだけの報告
となっていた。
しかし、阿部先生には何かその報告だけの文章がひっかかってしかたがなかった。
本当にこの子は、ご飯も本当はまともなものを食べていないのではないか?
生活もここには普通にしているといった事が書かれてはいたが、
どうも文章に現実味が感じられない。
でも、だからといって、この生活についてを聞くような事をしては、
教師が生徒の言う事を信用していないといった話にもつれてくる可能性もある。
教師という職は、つくづく難しい職だ。
そんな安部先生の心配をよそに、敦は相変わらず無愛想な態度で
授業に臨んでいた。
でも、学校をサボるような非行少年ではなさそうだという事だけは、唯一の
救いなのだろう。
ある日、神保中に新しい仲間が登場した。
とはいっても、今度は転校生ではない。
それは、馬だった。
飼育というものをかねてから授業の一環に入れたかった校長の夢。
それが、今ようやく叶ったというわけだ。
生徒達は、馬に親しみがなかったので、とても怯えていた。
誰もよりつかず、馬はとても寂しそうに生活をしていた。
その為、暫くは馬の世話は教師が行う事になった。
ある日、その日の当番の仕事をしにきた安部先生は
その馬の周りをみて何か違和感を感じた。
馬の周りが妙に片付いている・・・。
しかし、辺りを見回しても誰もいない。
これ以上調べたとしても、埒があかないため、その日は
整理された馬小屋でする事もなくなったため、
彼女は馬と話をしてから帰ることにした。
「そういえば、貴方にまだ名前つけていなかったわね。
ごめんなさいね、何かみんなに可愛がられる為にきたはずなのに、
みんなからのけ者にされちゃって。
絶対仲良しにさせてみせるからね。待っててね。」
彼女は、それだけを馬に伝え、去っていった。
「・・・。」
誰かが彼女の去っていく影を目で追っていたのだった・・・。