慌しい毎日に変化がおとずれたのは、突然だった。
棟崎さんのよからぬ噂が周りに広まり、波紋を呼んでいた。
棟崎さんの父親はとても優秀な財閥の副社長。
会社では、時期社長である事は誰もが黙認する存在であった。
棟崎さんは、そんな親の期待を一身に背負っている娘だった。
しかし、そんな棟崎さんの親は、実の親子関係ではないという噂が広まったのだ。
そんな噂は、本人にもすぐ伝わり、彼女もいつもにも増してイライラが募っていた。
私へのいじめもかなりエスカレートしていた。 殺されると本気で何度思った事か…。
「あんたの顔見ていると、イライラするのよ!今すぐにでも消えて欲しいくらいだわ!!」
私は、そんなあせる棟崎さんを見て、思わず笑ってしまった。
こんな彼女もやはり人間なんだ・・・と。
「なにわらっているんだよぉ!?ふざけてんの!?」
絶頂期には、私のいじめ部隊も10人は軽くいたはずだったが、
噂をかぎつけ、今まで棟崎さんへ感じていた不満から離れていく人が続出。
今では4人程までになってしまったようだ。
「!」
彼女は、もう学校での世間体は理性で止められる状態ではないようだ。
手にしているのはリコーダー。
その笛を武器に私を殴りつけた。いつまでもいつまでも…。
と、そのときだった。
「やめて!!」
聞き覚えのある声だった。如月さん・・・あの犬の主だ。
なぜ、私を助けようと・・・。
棟崎さんは、如月さんに手をかけようとした。
「なんだ!?いったい何をしているんだ!?」
担任の先生だった。
「おまえら、この様は何なんだ!?」
「・・・。」
「・・・け、喧嘩です。ちょっと言い合いになっちゃいまして、頭に血が上っちゃったんですよ。」
なぜか、私は棟崎さんのフォローに回った。
「藤埜・・・。そうなのか?棟崎。」
「・・・。」
「そ、そうです。藤埜がそう言っているんだから間違いないでしょ?先生。」
棟崎についていた仲間の一人が賛同した。
「そうか・・・。それにしても楽器は武器じゃない。以後慎むように!」
「すいません・・・。」
その場はそれで解決した。
棟崎さんの表情からはありありと悔しさが表れていた。
このままじゃ終わらせない・・・その気持ちが表情に表れているようであった。
「大丈夫だった?怪我はない?」
私は、私をかばってくれた如月さんと一緒に下校をする事になった。
「特に・・・。」
「そっか、よかった。」
「・・・バカだよ。なんで私なんかを?」
「・・・いい人だから。」その言葉だけを言い、彼女はその後は一言も話さずにいた。
ただ、彼女はとてもまばゆい笑顔で帰路についた。
私も、そんな彼女の笑顔を見てあったかい気持ちになりながら帰宅をしたのだった。
あくる日から、棟崎さんのメンバーは棟崎さんを含んで3人まで減っていた。
しかし、そこまで残るメンバーだ。やる事はさらにエスカレートしていた。
「もう、おまえなんて要らない。
おまえがいるだけで、私は不幸なのよ!!」それだけを私にぶつけていた。
私はその執拗ないじめにまた耐える日々が続いた。
しかし、私は如月さんのことが気になって仕方がなかった。
棟崎さんにあれほどの屈辱を味わせた人。簡単に野放しにしておくわけがない。
それから数日、如月さんの姿は見なかった。 気になってB組を覗いたりもしたが、見当たらないようであった。
「如月の事さがしているのか?」
B組の男子生徒が私に声をかけた。
「如月最近おまえみたいにいじめにあっているみたいだぞ。
おまえもとんだ不幸を背負う人間だな。おれも不幸になりたくないからもう教室に戻ってくれないか?」
如月さんが・・・いじめに?
分かりきった事だった。
「あ、如月だけどな、今は多分保健室にいるんじゃないか?」
私を疫病神扱いしたクラスの男子は、最後に教えてくれた。
「なんだよ、感謝の言葉もなしか?だから疫病神だって言ってんだよ。」
私はその言葉も最後まで聞かず、保健室に走っていった。
「あら、いらっしゃ〜い♪藤埜さん♪」
保健室の前で待っていたのは棟崎さんであった。
「感動の再会といいたいところでしょうが、そうはいかないわよ。
あんたには、少しの幸せもあげるわけにはいかないんだから!!」
そう言うと、私の制服の襟をひっぱり、校舎の外に連れ出した。
連れて行かれたのは、体育倉庫だった。
この場所は、体育の時等でしか誰も近寄る事のない場所であった。
この中に私は押し込められた。
「あんたは、こういった馬小屋みたいなところがお似合いよ!
そこで黙って一日でも二日でも生活しているといいわ!!」
そう言った棟崎さんは、私を体育倉庫に監禁し、どこから持ってきたのか不明だが、
倉庫の鍵を外側からかけてしまった。
「じゃあね〜♪」
この世の中で一番幸せと言わんばかりの声で彼女は去っていった。
「寒い・・・。」倉庫は広く、暗い。
倉庫なので、当然暖かさがある訳がなく、代わりに妙な不気味さがあった。
さすがに私もこの閉鎖された空間にはとてつもない恐怖があったが、どうする事もできなかった。
「如月さん、どうしてるんだろう・・・。」
何時間が経過しただろうか。
私の体力等にも既に限界がきていた。
恐怖に絶えるのにはかなりの労力が必要なようだ。
でも、私には声を張り上げて恐怖を訴えることはできなかった。
声を上げて何になるのだろう…。こんなところで、人生に対する諦めがまじまじと出てしまっていた…。
その頃、如月さんが、私を探していた。
こんな辛い中でも、私のことを思い、帰りを一緒に帰ろうとしていたのだったが、
外靴はあるのに、本人が校舎の中にいない…そのことを心配してくれていたようだ。
「先生、いいでしょうか?」彼女は、保健室の先生に相談した。
「どうしたの?」
「その・・・藤埜さん、いじめにあっていて・・・。」
「藤埜さんって・・・。」
「2年C組の藤埜 瑞穂さんです。彼女ずっといじめにあっていたんです。」
「藤埜さんまで・・・。それで、どうして急に?」
「それで、最近私一緒に下校とかしていたんですけど、今日も一緒に帰ろうとしたんですが・・・。」
「いないの?」
「えぇ・・・。」
「先に帰っちゃったのね。」
「いえ、それがまだ下駄箱には外靴があるんです。」
「じゃ、まだ校舎に?」
「なんか嫌な予感がするんです。一緒に探してもらえませんか?」
「・・・そうね、それは心配だわ。私も探すわ。」
「ありがとうございます!」
こうして、捜索が始まった。
その頃私は、疲労がたまり、意識が朦朧(もうろう)としていた。
「どう?見つかった??」
「いえ、全く・・・。」
「下駄箱見たんだけど、やっぱりまだいるみたいね。
靴を忘れて帰るなんてそんな事滅多にあることじゃないだろうし・・・。」
「はい・・・。」
「あと、探していないところはどこかしら?」
「体育倉庫くらいです…。」
「可能性としては薄いと思うけど…。行こうか?」
「はい。じゃ、私鍵を貰ってきます。」
「お願いね。」
あたりは日も暮れ、すっかり暗くなってしまった。
私はその時の記憶はもうはっきりとは覚えていない。
意識があまり確かではなかったからだ。
ガラ・・・。戸を開ける音が聞こえ、かすかに光が漏れていた。
「!!藤埜さん!?如月さん、いたわよ!!」
「本当ですかっ!?」
すっかり弱っていた私を二人はこの場所に監禁されてから4時間後に発見した。
「藤埜さん?聞こえる??大丈夫??誰がこんな・・・。」
私は、かすかに聞こえる保健の先生の声に軽くうなずく程しか力がなかった。
「救急車を呼ばないと。」
「私、呼んできます!!」如月さんの…声?
「もう、大丈夫だからね?」
その数分後、私は救急車で運ばれていったようだ。