あれから、5年の月日が流れた。
悠平は、毎年冬になると、その丘に毎日のように来ていた。
ただ一つの事を、毎日毎日祈っていた。
『必ず、雪乃は約束を守ってここへ来る。』それだけを胸に…。
雪乃を待つ5年目の冬も、あとわずかになっていた。
その日も悠平は、雪乃を待つために、朝早くから丘に来ていた。
その日は、朝から雪雲が空を覆い、今にも雪が降り出しそうだった。
「ゆき、降るね〜。」
どこからか、悠平に向けて話をしている声が聞こえた。
悠平が慌てて声がする方に振り返ると、そこには小さな女の子が立っていた。
「美奈ね、知ってるよ、白いつぶつぶがお空からいっぱい落ちてくるんだよね?
それがゆきっていうんだよね?」
とても誇らしげに語るその女の子の言葉は、実に可愛かった。
悠平は、雪乃とこの少女を、重ね合わせて見ていた。
「そうだね、雪っていうんだよ。お兄ちゃんね、雪見たことあるんだよ?」
「え?あるの〜??いいなぁ。美奈も見れるかなぁ?」
「そうだね、今日なら見れそうだね。」
今日ならもしかすると…悠平にも期待の思いが強まる。
「本当〜??楽しみだな♪」
「そうだね〜。」
「そうだ、お兄ちゃんはここで何してるの?」
その女の子に聞かれて、悠平は微笑みながら、ゆっくり優しく答えた。
「君と同じ、雪が大好きな女の子を待ってるんだよ。」
「そうなんだ、早く来るといいね♪」
少女は、微笑む悠平に、満面の笑みで言葉を返した。
「ありがとう♪」
そんな話をしている時、ついに雪が降り出してきた。
「雪だよ、美奈ちゃん。これが雪っていうんだよ。」
悠平は女の子にそう言った。
「うわぁ〜雪だぁ〜雪〜☆」
女の子は無邪気にはしゃぎ出した。
悠平はあの時の二人を思い出していた。
今日の雪も、あの雪乃と遊んだ当時の雪のように、澄んだ、白く輝いた雪であった。
「ねぇ、お兄ちゃん、あのお姉ちゃんも雪、好きなのかなぁ?」
「え?」
女の子の指さした方には、確かに一人の女性がいた。
降り注ぐ雪を前に、両手を広げて楽しそうに、そして切なげにも見える笑顔を見せながら、
無邪気に踊っていた。
「お姉ちゃんも、雪、好きなのぉ?」
女の子がその女性に声をかけた。
その女性は、女の子の声のするほうを見ていた。
「!」
明らかにその女性の表情が変わった。
その女性から発せられた言葉は…。
そう、その女性は人間となった雪乃だった。
二人の願いは、この時、叶ったのだった…。
信じる力があれば、それを守ろうとする奇跡も生まれる。
奇跡は、あるはずがないと信じる人もいるけど、思うだけではだめ。
奇跡は、待つものではなくて、自分で生み出すもの。
だから自分は、この世で一番尊い存在であるし、一番信じなければならない存在。
自分に負けたら、それでおしまいだし、自分とうまくやっていける人は案外いろんなこともうまくいく。
どんなに努力しても、不可能なことはあるけど、やってみないと分からない。
人生は摩訶不思議。
誰にも予測ができる生き方であっては、生きている価値も薄れてしまう。
だから人生は面白いのかもしれない…
E N D