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院生兼務取締役の独り言 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2009年04月22日

「有罪率99%」という言葉の意味

| 20:53 | 「有罪率99%」という言葉の意味 - 院生兼務取締役の独り言 を含むブックマーク はてなブックマーク - 「有罪率99%」という言葉の意味 - 院生兼務取締役の独り言 「有罪率99%」という言葉の意味 - 院生兼務取締役の独り言 のブックマークコメント


よく司法を批判するときに、「有罪率99%」という言葉が使われます。刑事裁判における無罪判決の少なさを揶揄する言葉です。

しかしどうもこの言葉は無批判に使われている傾向が感じられます。


「有罪率99%」という言葉は司法を批判するためには使えません。むしろ最大級の誉め言葉です。以前も少し書いたことがあるのですが、改めて書いてみようと思います。


まず前提となる知識の確認です。

刑事事件で逮捕されると、まず48時間を限度として身柄が拘束されます。

その後検察官に送致され、24時間以内に勾留請求がされてそれが認められると、今度は10日〜20日間身柄を拘束されて取り調べられます。(起訴前勾留)

その後起訴されると、今度は確定判決が出るまで勾留されるので、2ヶ月から数年間身柄を拘束されることになります。*1

つまり、



逮捕=48時間(+勾留請求するまでに24時間。身柄拘束から勾留請求するまでは72時間以内)

送致

起訴前勾留=10〜20日

起訴

起訴後勾留=2ヶ月〜数年



ということです。


さて、「有罪率99%」が批判の対象となるということは、有罪率は低い方がいいということです。仮に日本の刑事裁判の有罪率50%=無罪率50%であるとしましょう。するとどうなるか?

無罪率50%ということは、起訴された人の半分が無罪だったということです。しかしこの人たちは判決が確定するまで2ヶ月〜数年間身柄を拘束されることとなります。無罪なのに、ずいぶんと長い間拘束されてしまう*2のです。当然裁判所もその分仕事が増えます。

すなわち無罪率50%ということは、



・50%は裁く必要がなかった=それだけ裁判所に無駄な仕事をさせた

・50%は裁く必要がなかった=それだけ無駄に身柄を拘束された人がいた



ということです。


逆に有罪率99%=無罪率1%だと、起訴された人の1%しか無駄な長期間の身柄拘束を受けなかったということになります。


さあ、有罪率50%と有罪率99%とでは、どちらの方がいいでしょうか?


なぜ有罪率が99%なのか?


答えは簡単。検察官がほぼ確実に有罪になる被疑者しか起訴していないからです。


こんなデータがあります。


不起訴率・・・55.2%*3


これは検挙された人のうち、約半分しか起訴されていないということです。もし有罪率99%という言葉をもって裁判所を批判するなら、当然不起訴率も高くなければいけません。なぜなら検察裁判所が無理矢理有罪にしているのならば、逮捕された人のうち有罪になる件数も多いはずだからです。

しかし実際に起訴されるのは約半分だけ。逆に言えばそれだけ誤認逮捕*4の数も多い(実際には不起訴処分が圧倒的に多い)ということですが、誤認逮捕されて不起訴処分になり、数日から数週間で自由の身になるのと、誤認逮捕されて起訴され、2ヶ月から数年身柄を拘束されて無罪判決を受けるのと、どちらがいいでしょうか?

もちろん、誤認逮捕はない方がいいに決まっています。しかし警察官は人間ですし、検察官ほどの法律知識はありませんから、間違えてしまうことはあります。そこで日本の検察は、その間違いをすぐに訂正できる能力を有しているのです。


以上から分かるように、無罪率が高ければ高いほど、その分無駄に取り扱う件数が増え、裁判所パンクしてしまうし(今でも裁判官の数が足りないのに・・・)、身体の自由という重大な人権を侵害される人の数もその程度も増加してしまうということです。

有罪率99%という言葉は日本の検察の優秀さを示すものなのです。



最早プロパガンダのように流布している「有罪率99%」という言葉ですが、こんな意味があるんだよ、というお話でした。

もっとも以上の話はこういう風にも考えられる、という一例であって、結局裁判所はほとんど検察のいうとおりに認めてしまっているんじゃないか、という批判を完全にかわせるわけではありません。先日の痴漢の逆転無罪判決を見てもわかるように、ろくに物的証拠もないのに有罪にしてしまうということは、現実としてあります。

このエントリーの趣旨は、いろいろある物事の見方の紹介というように理解して頂ければと思います。


他の方の参考となるエントリーをご紹介しておきます。元検察官弁護士さんの話は特に勉強になります。

「有罪率99%」は謎か異常か? - 元検弁護士のつぶやき

起訴率の低さと無罪率の低さとの関係 - la_causette

「有罪率99%」の謎 - 池田信夫blog

99%有罪は、非合法黙認の温床 - 404 Blog Not Found

*1:ちなみにいわゆる保釈を請求できるのはこの段階になってからです。保釈される人も相当数いるので、全員が身柄拘束され続けるわけではありません

*2:もちろん保釈される人もいます

*3:平成17年度。法務省統計より。 www.moj.go.jp/TOUKEI/DB/keiji06.xls なお、全体の半分近くを占める業務上過失致傷(ほぼ交通事故)を除くと、不起訴率は27.7%になります

*4:ここでいう誤認逮捕は、結果的に起訴されなかった人を逮捕したという程度の意味

woodwood 2009/04/25 03:14 質問なんですが、検挙=逮捕なのでしょうか、書類送検は検挙ではないのでしょうか?

そして有罪率99%というのは、検察の正確度(こんなものは判断できかねるが)が高くなければ、捕まえた犯人を取りこぼしている可能性があると論理的に導くことが可能なのではないですか?

日本では起訴されるよりも逮捕された方が社会抹殺度合いが高そうな上、起訴されると現実的には被告人の人生は終わるので検察は完全性をもって臨んでいるに過ぎないのではないでしょうか。要は取りこぼしているわけです、取りこぼす理由もあるわけですと。

fly-higherfly-higher 2009/04/27 14:16 ここ数日はパソコンでネットを使っていなかったため、お返事が遅れて失礼いたしました。

>質問なんですが、検挙=逮捕なのでしょうか、書類送検は検挙ではないのでしょうか?

「検挙」という言葉は、「捜査機関(警察や検察)が事件の被疑者を特定する捜査行為」という意味で使われているようです。この定義からは、書類送検は検挙には入らないでしょうね。

>そして有罪率99%というのは、検察の正確度(こんなものは判断できかねるが)が高くなければ、捕まえた犯人を取りこぼしている可能性があると論理的に導くことが可能なのではないですか?

論理的に可能というよりは、制度上そうなることが予定されているといったほうが正しいのではないでしょうか。起訴便宜主義というのは、woodさんの表現をお借りして大雑把に言うと「捕まえた犯人を取りこぼすかどうかを検察の判断に委ねる」という制度です。たとえばある罪を犯していることが明らかでも、情状等を総合的に判断して起訴しない(=起訴猶予処分)といったことができます。ですから、別に取りこぼしているといったことは、現在の制度を前提にすれば問題ではありません(そもそも「取りこぼす」とはどういう意味なのかがよくわかりませんけれど)。

もちろんこのような制度に対する批判はあるでしょう。起訴便宜主義の反対概念である起訴法定主義(=検察官に起訴猶予処分の裁量を認めず、法定の要件を満たせば全部起訴させる方式)というものもあります。
しかしこのような批判は現実的ではありませんし、起訴法定主義にも当然さまざまな問題点があります。とりあえずは現在の制度を前提として議論する方が、建設的ではないでしょうか。

最後に、

>日本では起訴されるよりも逮捕された方が社会抹殺度合いが高そう

これはちょっと疑問ですね。逮捕されたとしても起訴猶予処分になれば、社会的に抹殺されるということはないと思うのですが。
woodさんがこのあとに書いておられるように、起訴による被告人へのダメージという点は、検察官も考慮しているだろうと思います。